がん患者は亡くなる1~2カ月前まで元気に過ごせる

もうひとつ、がんについてお知らせしたい特徴があります。がん患者は亡くなる1~2カ月前まで元気に過ごすことができるのです。図にがん患者がたどる体力の軌跡を示しました。図をみてわかるように、ギリギリまで自分のやりたいことができるのです。

がん患者の死までの経過のイメージ(図版作成=筆者)

ただし最後は急激に悪化します。事前の準備が無いと、本人も周囲もショックが大きく、悔いを残すことにもなりかねません。

樹木さんは、いつ死ぬかは分からなくても、いつかそのときがくることを受け止め、いつ死んでもいいような生き方をされてきました。そのような心境になるのは簡単なことではありませんが、「最善を期待しつつ、最悪に備える」という心構えは、まねすることができるはずです。

「最善を期待する」とは治療が効果を発揮して、長生きできることを期待するということです。治療をあきらめる必要はありません。しかし死は必ずやってきます。「最悪に備える」とは、死に備えて準備をしておくという意味です。

2.自分の死に方について考え、話し合っておく

樹木さんは、かつて「畳の上で死ねれば上出来」と語っていました。そして、その言葉の通り、自宅で家族に見守られながら亡くなられました。人の死に方はさまざまであり、病院で亡くなられる方もいれば、自宅で最期を迎えられる方もいます。どちらがいいかは人それぞれ、環境や価値観によっても異なります。ただ、樹木さんは、自ら自宅で亡くなることを希望し、それを実行されました。

死に方について前もって考えておかないと、急に体調が悪化したとき、自身で納得のいく死に方とはならない可能性が高くなってしまいます。

そのためには自分の希望を、家族などの周囲の人たちに、あらかじめ伝えておくことが大切です。心に中にしまっておくだけでは、いざそのときがやってきたとき、周囲に正しく伝えられないかもしれません。また、事前に伝えて相談しておくことは、家族にとってもあなたが死を迎えることの準備となるのです。おそらくはこのような話し合いがあったからこそ、樹木さんのご遺族も、本人の希望を最期まで支えられたのだと思います。