ダンスの発表会のため、治療を休んだ女性のケース
ある進行がんに対する抗がん剤治療を受けている方でした。趣味がダンスで定期的な練習や発表会をとても楽しみにされていました。しかし抗がん剤治療が長期化し、体力的には厳しくなっていました。
あるとき、患者さんが目標としていたダンスの発表会が予定されていました。「どうしても、この発表会はやり遂げたい」「私には次の発表会があるかわからない」。患者さんが主治医に相談したところ、抗がん剤治療の延期を提案されました。「だって、あなたにとってはダンスの発表会がなにより大切でしょう。無理に治療して発表会が台無しになったら取り返しがつかない。治療は休んで、発表会が終わってからまたやればいいんですよ」。
主治医も患者さんが大切にしていることを理解し、自分らしく生きるための支援を提案したのです。このとき忘れてはいけないのが「痛みの緩和」です。この患者さんはがんの転移で、痛みを抱えていましたが、適切な医療用麻薬を使用することで、支障なくダンスに取り組むことができました。
恐らくは樹木さんが最期まで女優として生きることができたのも、こういった彼女らしい人生を尊重して支え、痛みの緩和を十分に行う医療者との関わりがあったからだろうと想像します。
「素敵なご臨終」のために必要なこと
樹木さんのように、カッコよく死ぬためには、次の3つのことが大切です。
「自分の死に方について考え、話し合っておく」
「人生において最も大切なものを知る」
私はこのように迎えた最期のことを「素敵なご臨終」だったと振り返ります。「素敵なご臨終」とはすなわち、患者さんのつらさが十分に緩和され、ご自身の生き方について納得し、そして患者さんのご家族も安らかな気持ちで見送ることができるような最期です。
緩和ケア医として3000人以上の患者さんの死に関わった経験を踏まえ、この「素敵なご臨終」についてもポイントを書籍にまとめました。本稿とあわせてご覧いただけましたら幸いです。
永寿総合病院がん診療支援・緩和ケアセンター長、緩和ケア病棟長
2005年、東海大学医学部卒。三井記念病院内科などで研修後、2009年、緩和ケア医を志し、亀田総合病院疼痛・緩和ケア科、三井記念病院緩和ケア科に勤務。2014年から現職。病棟、在宅と2つの場での緩和医療を実践する「二刀流」の緩和ケア医。「周囲が患者の痛みを理解することで、つらさは緩和できる」が信条。日経メディカルOnlineにて連載中。著書に『どう診る!? がん性疼痛』(メディカ出版)がある。