日本企業は「微笑み化」にどう対応するか

業界の「微笑み化」は、当然ピンチでもありチャンスでもある。完成車メーカーにとっては、川下と川上からの挟撃にどう立ち向かうかという戦いになる。

日本の完成車メーカー大手は、日米を中心にさまざまなサービスの試行を繰り返している。中国の巨大なIT企業と互角以上に渡り合うために、拠点市場での最終消費者に接する川下側の知見蓄積がさらに必要だろう。

日系の部品・部材メーカーにとっては、ピンチよりもチャンスのほうが大きいと思われる。車両の使い方が多様になることで、高度な製品が求められる可能性が高いからだ。部品メーカーとしては、ニーズの発信源であるIT系のサービス事業者に入り込むことが必要である。完成車メーカーへの仕様対応はもちろん引き続き重要だが、5年先を見据えれば、サービス事業者にコンセプトインする動きの重要性が高まるはずだ。

実際に、中国の大手IT企業やその出資を受けるサービス事業者と話をしていても、車両活用サービスを充実させるにあたって、日系メーカーの技術・製品への関心は強い。だがこれまで直接の交渉はほとんどないとのことで、このような活動は部品・部材メーカーにとっての事業拡大のきっかけになると思われる。

なお日本総研では、日系メーカー各社と中国のサービス事業者から成る研究会の立ち上げを行っている。それぞれの強みを組み合わせることで、新たな事業の可能性を模索するというのが狙いだ。

自動車業界の「微笑み」が誰に向けられるのか、現時点であらかじめ決まっているわけではない。サービス事業者の躍進が続くかもしれないし、部品メーカーの利益率が格段に上がるかもしれない。あるいは完成車メーカーが事業の幅を広げるかもしれない。いずれにせよ、微笑みはそれを獲得しようとトライ&エラーを繰り返すプレイヤーに向けられるはずだ。中国で新たな一歩を踏み出す企業こそ、この変化をチャンスにすることができるだろう。

程塚正史(ほどつか・まさし)
日本総合研究所創発戦略センターマネジャー
1982年生まれ。2005年に東京大学法学部卒業後、中国における物流関連ベンチャー設立に従事したのち、衆議院議員事務所、戦略コンサルティング会社を経て、2014年より日本総合研究所入社。中国市場含め自動車・モビリティ事業に関するプロジェクトや新事業設立支援を推進。主な著書に『国際協力学の創る世界』(共著)/2011年/朝倉書店、『「自動運転」ビジネス 勝利の法則-レベル3をめぐる新たな攻防』(共著)/2017年/日刊工業新聞社。
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