党主導の景気回復策には不安が残る
3月5日、中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開幕した。今回の全人代で明確になったのは、これまでに増して政権による経済・社会の統制が強まったことだ。それは、李強首相の「習近平同志を核心とする党中央の指導のもと、全ての民族・人民が団結した」との政府活動報告にも表れている。今回は、これまでの慣行を破って全人代の閉会後の首相会見も廃止した。
その背景に、権力を政権に集中し党主導の政策運営体制の強化を図りたいとの意図があるのだろう。政権の統制の強化につながる法令や委員会なども増やした。本来であれば、低迷する景気の回復への政策が多く出されるべきだろうが、具体策の提示には不安を感じた専門家も多かったはずだ。
今後、景気の低迷が続くと、一般市民の不満が蓄積することも懸念される。不動産デベロッパーや、地方政府傘下の融資平台の不良債権問題は深刻だ。李強首相は外資誘致を積極的に促進する考えのようだが、統制型経済の状況では海外に脱出する企業は増えることも考えられる。また、中国を離れ海外移住を目指す人も増える可能性もある。統制強化によって、中国経済が個人消費主導型へとモデルチェンジすることは難しいだろう。
「反スパイ法」の改正がそれを象徴している
近年、中国政府は党指導部への権力集中を強化してきた。今回の全人代は改めて、統制強化を徹底する政府の考えを確認する機会になった。2023年の法律の運用、各種委員会の設置、今回の全人代での報告内容を見ると、いかに統制強化を重視しているかが確認できる。
昨年7月、中国は改正版の“反スパイ法”を施行した。2014年に習政権は反スパイ法を制定し、国家の安全を脅かすとみなす外国人などを厳しく取り締まった。スパイ法の改正によって、取り締まりの対象は拡大した。国家の機密情報、安全保障に関する情報やデータを盗み取ろうとする行為、サイバー攻撃などがスパイ行為とみなされる。スパイの疑いがある人物の出国、疑いがある外国人の入国も認めない。