アメリカと中国で紛争が起きる可能性はあるのか。地政学者の奥山真司さんは「可能性はある。起きるとすれば、これまで注目されてこなかった韓国の最西端の島、白翎島をめぐる争いがきっかけになるかもしれない」という――。

※本稿は、奥山真司『新しい戦争の時代の戦略的思考』(飛鳥新社)の第9章〈危機に乗じる中国「次の一手」〉の一部を再編集したものです。

中国海軍の補給艦「潮湖」
写真=Avalon/時事通信フォト
2017年8月25日、インド洋西部海域で駆逐艦「長春」(写真には写っていない)に燃料を補給しようとする中国海軍の補給艦「潮湖」。

台湾、尖閣以外に紛争が起きうる場所

予測をする際にわれわれが見落としがちなのが、韓国(+アメリカ)と中国の地政学的な紛争の勃発の可能性だ。

われわれは台湾や尖閣にばかり目を奪われているが、それ自体、中国の誘導、情報工作のたまものかもしれないのである。そこで紹介したい興味深い記事がある。ブルームバーグの韓国系のコラムニストであるイ・ジョンホが、2021年5月4日に発表した意見記事である(「China’s New Flash Point With U.S. Allies Is a Hotspot for Spying[中国と米同盟国との新たな火種は、スパイのホットスポット]」)。

この記事を要約すると、次のような内容となる。

・韓国が実効支配している白翎島はくれいとうは、従来は北朝鮮監視のための拠点であった。
・ところがこの黄海にある島のそばで、近年は中国の漁船が大量に来るようになり、2020年の12月には人民解放軍の軍艦が通過して、韓国の軍事関係者を驚かせた。
・北京は2013年にこの海域で「海洋作戦地域」(AO)の境界線を設定し、それから黄海での活動を活発化させている。
・2016年にはこの海域で操業していた中国の漁船が警戒活動をしていた韓国の沿岸警備隊の巡視船に突っ込んで沈没させる事案も発生している。
・近年の中国は南シナ海だけでなく黄海の支配権を確立しようと動いている。
・白翎島の5000人もの住民たちは、中国の動きを恐れて文在寅大統領(当時)にさらなる行動を求めている。

要するに、北京が黄海を完全に「内海化」しようと動いており、その近くを実効支配している韓国が警戒感を高めているという図式だ。