喉元にある「やっかいな島」

この地政学的に重大な状況について、3つのことを指摘しておきたい。

第一が、この記事で焦点となっている「白翎島」の地理的な位置とその戦略的な意味合いだ。

白翎島
白翎島(写真=Korea.net/Korean Culture and Information Service (Jeon Han)/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

実はここは、北京にとっての海の出口にある、戦略的に極めて重要な場所だ。といってもその戦略的な重要性についてなかなか実感がわかないのと思うので、一つのたとえを使ってみたい。

それは、北京と東京の地理的な状況と比較することだ。スケールは違うのだが、日本の首都の東京と東京湾と浦賀水道の関係を、中国の首都である北京と黄海(渤海+西朝鮮湾)と渤海海峡の関係にたとえることができる。

そう考えると、日清戦争の激戦地となった威海衛いかいえいはさしずめ羽田や川崎にあたり、旅順などがある遼東半島は、千葉の富津岬にあたる。

すると、中国の首都である北京から見た「韓国」の位置は、日本の首都である東京から見て、千葉県(朝鮮半島)の南端にある「南房総市」にそのままあてはまるといえる。そして記事で話題になっている「白翎島」の位置は、日本にあてはめてみれば南房総市のすぐ北側の東京寄りの海に浮かぶ、鋸南町の「浮島」にたとえられるのだ。

「南房総市が敵国の同盟国であり、しかもその国境の先端が浮島にある」と仮定して考えると、北京にとって、その島の存在がいかに戦略的な位置であるかが、われわれ日本人でも実感できるだろう。

ちなみにこの白翎島基地の湾と海峡と首都の位置関係において、日本にあてはめていえば海上自衛隊の館山航空基地がその位置づけに近い。もちろんこの基地は日本海軍によって首都防衛のためにつくられたものだが、その戦略的な位置関係は北京にとっての(敵側が抑えている)白翎島のそれに近いのである。

中国のトラウマ

第二は、大国にとっての「内海」の重要性だ。

中国のような大国は、原則として周辺にある地域や海域に、他の大国が関与してくるのを異様なまでに嫌う。歴史的にも、そこに他の大国が関与してきたら強制的な排除に動いてきた事例は、アメリカのカリブ海の例を見るまでもなく実に豊富にある。

月刊誌『ウェッジ』2021年6月号で「押し寄せる中国の脅威 危機は海からやってくる」とする特集を組んでいるが、中国にとっては「(日本を含む)外国の列強の軍隊は渤海海峡を通って北京にやってきた」という記憶がある。そのため、中国が黄海を完全に支配下においておきたい、という強烈なインセンティブを持っていることは想像に難くない。

それはいわば日本にとっての東京湾の支配であり、支配のうえで邪魔になるのが、南房総市が支配している浮島だ――というように中国は白翎島をとらえている可能性がある。

もちろん南房総市やそれ以外の千葉(=韓国)を完全に支配するのは無理だとしても、せめて南房総市とその支配下にある浮島を無力化しようとする東京(=北京)の動きは、戦略地理的な位置関係としては「理解」できるものだ。