大国同士の激突は思いがけない場所から始まる

第三が、紛争の発火点としての可能性だ。

ハーバード大学のグレアム・アリソン教授は日本でも話題になった『米中戦争前夜』(ダイヤモンド社)という本の中で、歴史的に見ると既存の大国と新興する大国が衝突し、大戦争になる確率が高まることを「トゥキディデスの罠」と表現し、現在の米中の対立もこれにあてはまるとして警告を発した。

もちろんアリソンは「米中衝突が必ず起こる」と言っているわけではないのだが、彼が歴史から導き出した一つの示唆として興味深いのが、「大国同士の激突は、思いがけない場所での小競り合いから始まる」としているところだ。

米中の衝突のきっかけとしては、日本では台湾危機や尖閣事案、さらには南シナ海案件が注目されやすい。だがわれわれは、この韓国vs.中国の焦点となる「白翎島」の存在も、次の危機の発生する可能性の高い場所として注目していくべきであろう。

もしアリソンのこの分析が正しいとすれば、白翎島のような注目されない場所からも火の手が上がるかもしれないからだ。

天安門を警備する武装警察、北京、中国
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日本が中国で最も懸念すべきこと

2023年に入ってから、中国から発信されるニュースは厳しいものばかりだ。少子化の速度は日本より速く、人口数はインドに抜かれ、コロナ後の経済の回復は遅く、恒大集団の苦境などから不動産バブルの崩壊が引き起こされている。

しかも経済だけでなく、政治面でも難題が発生しつつある。春先から秦剛外交部長(外務大臣)が失踪してから辞任しただけなく、軍の幹部もロケット軍の司令官と政治委員が交代させられたどころか、李尚福国防大臣までが解任されている。

中国にとって、このような国内問題自体、懸念すべきものであることは確実だが、それ以上に周辺国である日本が気をつけなければならないことがある。

それは中国が国内問題から国民の目をそらすために、あえて外に脅威があることを喧伝し、国内をまとめつつ外に強硬に出て、最悪の場合には戦争さえ起こすという懸念があることだ。

このように、外の敵と戦って国内をまとめるために行われる戦争については、国際関係論や安全保障研究という学問分野において「陽動戦争理論」という名前で研究が積み重ねられてきた。

では実際のところ、中国は陽動戦争を起こす兆候があるのだろうか?