内容量を減らす「実質値上げ」が増えている理由
働き方が選びやすくなるのはいいことだろう。しかし、賃金を上げたら販売価格も上げなければ企業収益はもたない。しかし、販売価格を上げるのは簡単ではないと白井さんは言う。
「社会保険料、ガソリン代、電気代、食料など身の回りのものの値段が上がっているから、みんな生活が楽じゃないと感じています。物価はそれほど上がっていないのに可処分所得が減っているから物価が高いと考えるわけです。賃金が上がればいいけれど、この先上がると思っている人はほとんどいません」
「加えて、すでに人口の約30%が65歳以上の年金受給世帯です。いつまで生きるかわからない。認知症になるかもしれない。将来の医療・介護にかかる支出を考えると不安でとても消費する気になれない。だからほとんどの人が物価上昇は好ましくないと思っています。そんななか販売価格を上げれば、シェアを失うことは間違いないので、企業は怖くて上げられない。堂々と上げられないから、内容量を減らすなどの実質値上げが増えているのです」
賃金を上げても販売価格が上げられないとなると、起きるのは熾烈な企業淘汰。生産性を高められる企業だけが生き残り、ほかは生き残れない。だから正社員の賃金は簡単には上がらない。
「14年からベアも一応プラスにはなっていますが、大企業でも1%以下。先行きが不安なのに固定給を上げるのには抵抗があるから、柔軟性のあるボーナスで調整しているのです」
ほとんどの企業はこの先成長するとは思っていない
売上高が増えたわけでもないのに円安効果などで経常利益は増えたものの、設備投資に回すよりも内部留保が増大している(図5・6)。これも企業の不安と心配の表れだと白井さんは言う。
「ほとんどの企業はこの先成長するとは思っていません。考えているのは現状維持か、いかになだらかに縮小するか。成長が期待できないならたくさん設備投資をしても元が取れない。とりあえず内部留保しておこうとなる。その資金をもとにM&Aで生き残りを図ろうとしている企業もあります」