環境庁(当時)の1999年の試算では約1000億円とされてきたサマータイムへの対応費用だが、近年の情報システムやデジタル機器の浸透を踏まえて、改めて費用と社会への影響を算出する必要がある。

IT業界にとっては「特需」ではなく「リスク要因」

サマータイムの導入によって、民生デジタル機器や情報システムのテスト・改修のために膨大な費用が必要となる。時計やデジタル家電の買い替え需要も喚起される。ではサマータイム対応を担うIT業界は、特需によって潤うのだろうか。

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折しも2019年から2020年にかけては新元号や消費税の軽減税率への対応が進んでおり、エンジニアの需給は逼迫している。稼働が埋まっているITベンダーにとって、サマータイムの導入は、プロジェクトの推進に不確実性をもたらし、エンジニアの単価を引き上げかねないリスク要素でしかない。エンジニアにとっても既存システムの動作確認やシステム改修は、後ろ向きで何ら価値を生まない作業だ。

デジタル機器メーカーは売り切りで新規の売上が見込めない中で、すでに販売した機器のテストだけで大きなコストとなる。自社でパッケージやサービスを提供している企業は、追加費用なしで対応を求められる。他システムとの連携を行う場合、そのテスト工数もかさむ。既存の保守契約の中で対応を求められて、もともと予定していた機能拡張や新規開発を先延ばしにして工数をやりくりすることになるだろう。

電力不足の対策としても逆効果になる恐れ

競争力の低い受託開発ベンダーの中には、降って湧いた膨大なテストと改修の案件で潤うところもあるかも知れないが、全体で見るとIT業界は後ろ向きな作業に多くの要員を割かざるを得ず、全ての案件が影響を受けることから、大きく足を引っ張られる。エンジニア不足の中で未熟練の要員を大量にかき集めれば、大きな混乱が予想される。オリンピックを前に、事故を誘発しかねない開発案件を積み上げることのリスクは大きい。

電力という観点でのリスクもある。産業技術総合研究所は2011年、東日本大震災後の電力不足に際して、時刻を1時間早めるサマータイムの効果を試算したが、「夕方に事務所の空調を若干削減するものの、家庭の空調を大幅に増加させるため、逆効果となる可能性がある」と結論づけている。