気象庁が「一つの災害」と表現するほどの暑さが続いている。それでも多くの市民ランナーは「暑さに負けたくない」と各地を走っている。これは非常に危険な行為だ。元箱根駅伝ランナーの酒井政人氏は「大汗かいて走る人の体は危険な状態」として、「ランニングバカ」に警鐘を鳴らす――。

酷暑の中、皇居をランニングする人はバカなのか

7月23日に埼玉県熊谷市で史上最高気温となる41.1度が観測されるなど、各地で35度を超える猛暑日が続出している。気象庁が「一つの災害」と表現するほど、今夏の日本列島は熱波に包まれている。そんな状況でも、ランニング熱はさほど下がっていない。皇居に行けば、走っている人を多く見かける。

こんな暑さの中でランニングをしても大丈夫なのか?

※写真はイメージです(写真=iStock.com/grynold)

そんな素朴な疑問を感じる方もいると思う。もちろん大丈夫なはずがない。筆者は中学から大学まで陸上競技をしてきたが、気象コンディションでパフォーマンスは大きく変わることを実感している。たとえば1万m走の場合、気温10度前後なら30分で走れる選手でも、気温30度を超えると31分以上になるのが普通だ。

なぜか。以下のようなメカニズムだと考えられている。

(1)暑さで発汗量が増える
→(2)体内の水分量が減少
→(3)汗が出にくくなる
→(4)体温が上昇
→(5)カラダを冷却するために皮膚の血流が増加
→(6)心臓への血流が少なり、酸素や栄養素の運搬が滞るようになる

一般的には、体重の1%の水分が失わるだけでパフォーマンスの低下が始まり、2%で喉の渇きを感じ、3%でパフォーマンスの低下が自覚できるようになり、集中力も低下する。4%で脱力感や吐き気、6%で手足の震え、8%で呼吸困難やめまいが起こる。体重が60kgの人なら、2kg以上の水分が減少すると、明らかな「異変」が起こると考えていい。

名門校の選手が「熱中症」で途中棄権した

6月30日に全日本大学駅伝の関東予選会が浦和スタジアムで行われたが、例年以上の「暑さ」もあり、全体的にタイム(1万m走)は低調だった。それどころか名門校の選手が「熱中症」で途中棄権している。

この日、さいたま市の最高気温は33.8度。梅雨明けしたばかりで、レース開始時の17時30分時点でも暑さが残り、ジメジメしていた。悲劇は最初の1組で起きた。中央大の選手がフラフラになり、けいれんにより残り450mで動けなくなったのだ。

その選手は1万mで29分51秒の自己ベストを持っており、その日はトップが30分48秒というスローペースだった。それでも体をコントロールできなかった。月間で600~800kmを走り込んでいるランナーでも、1万m走でこんな事態になる。酷暑の中のランニングは、それだけ危険なのだ。

環境省は熱中症対策として、「WBGT」という指数を提示している。単位は気温と同じ摂氏度だが、人体の熱収支に影響する湿度、日射・輻射熱など周辺の熱環境を加味したものになる。そして日本スポーツ協会(旧・日本体育協会)はWBGTをもとに、「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」を作成している。その中にある「運動に関する指針」を紹介したい。

WBGT31度以上は特別な場合以外、運動を中止するべきという判断だ。ランニングを日課にする人は、「走れないこと」にストレスを感じてしまう。しかし、こんな日はよっぽどの事情がない限り、ランニングなんてしてはいけない。