1960年代から「完全養殖」に取り組むが……

少し説明が必要だろう。私たちが食べるうなぎは、今やほとんどが養殖だ。だがうなぎの完全養殖はむずかしい。実際には、稚魚として天然のシラスウナギを捕獲し、養鰻場と呼ぶ養殖池で育ててから出荷する。つまり稚魚の生産は天然資源に頼っているのだ。

「完全養殖」の研究は長年行われている。「うなぎに卵を産ませる」研究は1960年代から始まり、1973年には北海道大学で世界初の人工ふ化に成功している。2010年には独立行政法人「水産総合研究センター」(現・国立研究開発法人「水産研究・教育機構」)が、うなぎの完全養殖の実験に成功した。この手法は、(1)親うなぎから受精卵を採取して人工的にふ化→(2)仔魚、シラスウナギを経て成魚に育てる→(3)成魚のオスとメスから人工授精→(4)受精卵を人工的にふ化……を繰り返すことで、天然資源に影響を与えずにすむサイクルだ。

天然資源に影響を与えない「ウナギ完全養殖」のイメージ図。田中秀樹氏の発表資料より。

時間がかかる「完全養殖の実用化」

むずかしいのはこの先だ。元水産研究・教育機構グループ長の田中秀樹氏が解説する。

「実際の養殖に役立てるには、シラスウナギを大量生産する技術の確立が必要です。これが実現して量産化となれば、養殖用のシラスウナギの一部を完全養殖うなぎでまかなえる。この数字が増えるほど、天然資源への影響を減らすことができるのです」

つまり完全養殖は、実験レベルでは成功したが、大量生産が実現していないのだ。今年7月17日、「水産研究・教育機構」は、機構内の施設で育てたシラスウナギ約300匹を民間の養鰻業者に提供することを発表した。実用化を念頭に置き、養鰻業者が1年間養殖し、体長や体重の変化といったデータを提供してもらうという。

一方、業界団体である日本鰻協会は、2012年に「母なる天然うなぎを守ろう」というポスターを制作して加盟店に掲示。一般消費者に訴求した。その2年後となる、2014年には、国際自然保護連合(IUCN。本部はスイス)が、絶滅の恐れがある野生動物を指定するレッドリストに「ニホンウナギ」を加えた。レッドリストには法的効力はない。だが「うなぎの危機」は国際的な問題として注目を集めるようになった。