うどん店で週6日、牛丼店で週3日、さらに日本語学校へ
都市部のコンビニや飲食チェーンでは、今や外国人留学生のアルバイトは欠かせない戦力だ。私たちは普段、彼らから当たり前のように彼らから接客を受けている。だが、留学生たちが何を思い、どんな暮らしをしているかについて知る人は少ないはずだ。
東京都内の日本語学校に在籍するベトナム人留学生のタン君(24歳)は、牛丼店とうどん店をかけ持ちして働いている。2つの店とも都心部にあって、誰もが知る大手チェーンだ。
うどん店では、午前9時から平日は午後1時、日曜は午後4時まで週6日働く。加えて牛丼店で週3日、午後10時から翌朝8時までシフトに入る。牛丼店での仕事がある日は、勤務を終えた朝、地下鉄を乗り継ぎうどん店に直行する。そして午後2時から、今度は日本語学校の授業に出席する。日本語学校は午前と午後の2部制で、タン君は午後の部に属している。
「(牛丼店での)アルバイトの日は、ほとんど寝られません。だから、いつも眠いです」
来日して1年近くがたつが、日本語はまだたどたどしい。そんな留学生でも雇わなければならないほど、飲食チェーン店の人手不足は深刻なのだ。
1週間の仕事は55時間に及ぶ
2つのアルバイトで、1週間の仕事は55時間に及ぶ。留学生のアルバイトとして法律で認められる「週28時間以内」を大幅に上回るものだ。何もタン君が特別なわけではない。彼のように法律違反を犯し、アルバイトに明け暮れる留学生は何万人もいる。
「皆、(法律違反を)わかっていますよ。でも、シカタない……」
タン君はベトナム中部の都市、フエ近郊の出身だ。実家は農業で、家族は両親と5人のきょうだいがいる。高校を卒業後、しばらく農業を手伝っていたが、日本へ「留学」することにした。この3~4年、ベトナムでは「留学」を装っての日本への出稼ぎブームが起きている。そこに便乗しようと考えたのだ。
留学生の数は2017年6月時点で29万1164人を数え、12年末から11万人以上も増加した。ベトナムやネパールといったアジアの新興国出身者の急増があってのことだ。そうした国からの留学生は、ごく一部の富裕層や国費留学生を除けば、大半がタン君のように出稼ぎを目的に来日している。
留学のため約140万円の借金
タン君の両親の収入は、日本円で月2万円ほどにすぎない。それでは日本への留学は認められない。日本の留学ビザは、アルバイトなしで留学生活を送れる外国人に限って発給が認められるからだ。
ただし、基準を守っていては、政府が進める「留学生30万人計画」は達成できない。そのため政府は、経済力のない外国人にまで留学ビザが発給している。ビザを審査する法務省入国管理当局や現地大使館が、親の年収などに関し、でっち上げた数字の並ぶ書類を受け入れるのだ。結果、出稼ぎ目的の“偽装留学生”が急増している。
日本への留学のため、タン君は約140万円もの借金をした。日本語学校の初年度の学費や寮費、ブローカーへの手数料などである。多額の借金を背負っての来日は、“偽装留学生”に共通する。その借金が、彼の日本での生活に重くのしかかっている。