“偽装留学生”を受け入れる専門学校や大学はいくらでもある
ベトナムで背負った借金は、まだ100万円以上も残っている。法律違反が見つかり強制帰国となれば、タン君の一家は破産してしまう。
ビザが更新できれば、日本語学校を卒業する来年春までには借金は返済できるかもしれない。とはいえ、「出稼ぎ」の目的は全く果たせていない。日本にとどまって働き続けるには、専門学校や大学に進学する必要が生じる。入学金と学費さえ払えば、日本語能力など問わず“偽装留学生”でも受け入れる専門学校や大学はいくらでもある。だが、進学には100万円以上を貯めなければならない。そうなると借金の返済は遅れる。タン君の悩みは尽きない。
これまで筆者はベトナム人留学生だけでも100人以上を取材してきたが、タン君は“偽装留学生”としては、かなり日本語がうまい。来日1年で、何とか日常会話は成立するレベルにもなった。接客が必要な飲食チェーン店で働けるのも、ある程度の日本語ができるおかげだ。言葉に不自由する“偽装留学生”であれば、コンビニやスーパーで売られる弁当などの製造工場やホテルやビルの掃除といった、同じ夜勤でも語学力の要らない職場で働くケースがほとんどだ。もちろん、仕事をかけ持ちし、法律に違反してのことである。
日本人が嫌がる仕事を低賃金でやり続けている
そんな“偽装留学生”の労働力によって、私たちの暮らしは支えられている。彼らがいなければ、牛丼などの飲食チェーン店の多くで、24時間の営業は続けられなくなる。コンビニの弁当も現在の値段は維持できないだろう。そのため留学生を雇う企業は、彼らの違法就労に知らんぷりを決め込んでいる。
目を背けているという意味では、顧客として“偽装留学生”の恩恵にあずかる私たちも“共犯関係”にある。その陰で、留学生たちは違法就労への後ろめたさを抱えつつ、日本人が嫌がる仕事を低賃金でやり続けている。
借金漬けで来日する“偽装留学生”受け入れ、まさに国ぐるみで都合よく利用し続けている日本――。彼らに犠牲を強いてまで、私たちは「便利で安価な生活」を維持すべきなのだろうか。
ジャーナリスト
1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『The Nikkei Weekly』の記者を経て独立。著書に、『松下政経塾とは何か』『長寿大国の虚構―外国人介護士の現場を追う―』(共に新潮社)『年金夫婦の海外移住』(小学館)などがある。