厳しい職場環境に置かれた技能実習生の失踪や関連する事件が相次いだことから、制度の在り方を検討してきた政府の有識者会議が2023年11月24日、最終報告書をまとめた。現行制度を廃止し、人材の確保と育成を目的とした新制度「育成就労制度」の創設を提言するが、これで問題は解消するのか。長年にわたり実習生や外国人留学生問題を追及してきたジャーナリストの出井康博さんは「現行制度の“看板のかけ替え”にすぎず、本質的な問題は何も解決しない」という──。
制度の基本は変わらない
11月24日、外国人技能実習制度の見直しを議論してきた政府の有識者会議が最終報告書をまとめた。報告書では、すっかり悪名が定着した実習制度を“廃止”し、「育成就労」という制度を創設することが提言されている。政府は自民党などの意見を踏まえ、来年の通常国会に関連法案を提出する見通しだ。
ただし、法案が成立し、名称が「育成就労」となっても制度の基本は変わらない。現在と同様、実習生は「送り出し機関」と呼ばれる母国の人材派遣業者を介して来日し、日本側の「監理団体」が就労先へと斡旋する。3年間働けば在留資格を「特定技能」に移行でき、日本で長期にわたって働けることも同じである。
今回の見直しで、関係者が最も注目していたのが、同じ仕事で職場を移動できる「転籍」の問題だった。現在は就労先に問題がない限り、実習生の転籍は許されない。それが新制度では、就労開始から1年以上経ち、初歩的な日本語能力があれば認められる方針のようだ。
失踪した実習生の3人に2人がベトナム人
実習制度を使い日本で働く外国人は今年6月末時点で35万8159人に上り、日本人の働き手が不足する職種に労働者を供給するツールとなっている。
一方で、制度への批判は強い。実習生への暴行などの人権侵害が度々報じられ、職場から失踪する者も後を絶たない。事実、2022年の実習生の失踪者は9006人と、過去2番目の多さだった。
「転籍の自由がないため実習生が職場から失踪する」
そうした指摘を受け、転籍制限の緩和が決まった。実習制度“廃止”にも、失踪問題が影響したことは間違いない。では、新制度になれば問題は解決するのだろうか。