「ベトナム側の実態」を知らないはずはない

有識者会議としては、すべての罪を〈悪質な送出機関〉にかぶせたいのだろう。しかし手数料やキックバックの問題は、送り出し業者だけのせいではない。

業者は監理団体以外にも、許認可権を握るベトナム政府担当者への賄賂が必要となる。ベトナムのある業者幹部は、「認可を得るための賄賂や接待に日本円で1000万円以上使った」と私に証言する。しかも賄賂は認可を得た後も渡さねばならず、相手は1人ではない。

こうして実習生が借金して工面する手数料の一部が、送り出し業者を経て政府担当者のふところに入る。

業者は賄賂を介して担当者と癒着ゆちゃくしていれば、法律が定める手数料の上限を守らなくても罰せられることはない。ベトナムで一党独裁体制を敷く共産党の関係者が、業者の運営に関与するようなケースもある。

ベトナムでは、日本への実習生送り出しが特権階級の利権となっているのだ。そんなことは、会議に集められたほどの有識者であれば十分理解しているはずである。

賄賂を与える手のシルエット
写真=iStock.com/Ja'Crispy
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「日本人が考えるほど甘い国ではない」

一方、手数料問題に関し、最終報告ではこんな提言もなされている。

〈手数料等を受入れ機関と外国人が適切に分担するための仕組みを導入し、外国人の負担の軽減を図る。〉

実習生の就労先(受入れ機関)にも、手数料の一部負担を求めるべきだというのだ。一見すると「受益者負担」の理にかなっているが、これではベトナムの現状にお墨付きを与えるに等しい。

そもそも就労先は実習生を受け入れる際、1人当たり数十万円の初期費用を負担している。その一部は、現地で実習生をリクルートし、研修を施す送り出し業者に入るべきものなのだ。しかし現実には、業者は監理団体にキックバックまで渡して実習生を売り込んでいる。

仮に就労先が手数料を負担したところで、実習生の支払いが減る保証はない。前出・監理団体のベトナム人スタッフもこう述べる。

「いくら日本がルールをつくっても、ベトナム政府の利権がある限り、実習生の負担は減りません。ベトナムは日本人が考えるほど甘い国ではないんです」