実習生の失踪が多い「本当の原因」

実習生は母国でも貧しい層の若者たちなので、手数料は借金して支払う。来日後に働いて返済していくが、実習生の報酬は最低賃金レベルである。しかも仕事はきつい肉体労働だ。嫌になって職場から失踪し、より稼ぐため不法就労する者が現れる。

ただし、すべての国の実習生で失踪が問題になっているわけではない。たとえば、フィリピン人の場合、3万人近くの実習生が在留していた昨年の失踪者はわずか70人だった。割合にして0.2パーセントと、ベトナム人の3.4パーセントと比べずっと少ない。同じように転籍を制限されながら、フィリピン人はほとんど失踪しないのだ。

日本と同様に人手不足が深刻化し、多数の外国人労働者を受け入れる台湾の状況も参考になる。台湾の外国人労働者は約75万人だが、昨年1年間で4万人以上が失踪した。労働者が希望すれば転籍は認められるのに、失踪者は日本よりもずっと多いのだ。

台湾で失踪した外国人のうち、約83パーセントはベトナム人だった。台湾の外国人労働者全体に占めるベトナム人の割合は35パーセントなのである。そして台湾のベトナム人労働者も、やはり多額の手数料を業者に支払い、借金漬けで渡航している。

台湾の実態からも、失踪と「手数料」「借金」の因果関係は明らかである。言い換えれば、転籍制限を少し緩和したところで、手数料の問題がある限り失踪は減らない可能性が高い。

「ルール」の制定で問題は解決するのか

日本側は以前からベトナム政府に対し、問題への対処を求めてきた。

ベトナムはこれに応じ、昨年1月に新たな法律を施行した。送り出し業者が実習生から徴収できる手数料の上限を、従来の「3600ドル」(1ドル150円で54万円)から「日本での月収3カ月分-業者の管理費3年分」へと変更したのだ。実習生の月収が18万円、業者が実習生の就労先から受け取る「管理費」(仲介料)が月1万円の場合、手数料は18万円となる。

このルールが守られれば、ベトナム人実習生が背負う借金は減る。しかし、今でもキックバックの慣習が続いていることからして、改善の見込みは乏しい。そもそも以前の「3600ドル」からして、まったく守られていなかったのだ。

では、日本が新制度を導入すれば、手数料問題は解決するのか。有識者会議の最終報告には、次のような一文がある。

〈不当に高額な手数料等の徴収、監理団体・受入れ機関への饗応やキックバック等を行う送出機関の取締りを強化するなどして、悪質な送出機関の排除の実効性を高める。〉

「ベトナム」を名指しこそしていないが、有識者会議も接待(饗応)やキックバックの横行を認め、〈取締りを強化〉すべきだと提言している。ただし、〈実効性を高める〉ための手段は〈送出国政府との間での二国間取決め(MOC)を新たに作成〉とあるだけだ。問題は〈送出国政府〉が信頼できるのかどうかという点である。