漫画家 
三田紀房さん 

1958年、岩手県出身。明治大学卒業後、西武百貨店に入社。1年後、家業の衣料品店を手伝うために退社。業績悪化により一時無給状態となるが、漫画家を目指し執筆を開始。30歳でデビュー。高校野球を監督の視点から描いた『クロカン』で人気を博すと、偏差値36の落ちこぼれが東大に合格する様を描いた『ドラゴン桜』が大ヒット。現在ヤングマガジン(講談社)にて『砂の栄冠』を連載中。甲子園には春夏ともに毎回足を運んでいる。
 

漫画家って家の中にこもっていることが多いんです。僕も週4日家にいるので、外に出たときに出会う人との縁を大切にしています。

親父の知り合いが近くの高校で野球部の監督をしていて、小さいころよく家に遊びに来ていました。日中ぶらっとお茶を飲みに来て、練習が終わったらまたぶらっとビールを飲みにやって来る。そんな自由な彼をモデルに書いた野球漫画が『クロカン』でした。主人公が東大合格を目指す漫画『ドラゴン桜』。これも当時担当だった新人編集者が東大出身だったことが発想の原点になっています。

その担当者というのが佐渡島庸平君で、彼は「コルク」という出版エージェントを起業しました。活気を失っている出版業界で、デジタル化を進めることで漫画家の創作活動をサポートしようとしている。僕も契約しています。古い体質が残る出版業界で、大手の出版社を飛び出して、新しいことに挑戦している。そんな彼を応援したいと思っています。

お店も深い付き合いのできる、日常の延長線上にあることが大事だと思っています。以前は郊外の住宅地に住んでいて、外食といえば都心まで出ることが多かったんです。せっかく美味しいお酒を飲んできたのに、家に着くとさめちゃう。だから、理想は家の近くでサンダルを履いていける美味しいお店です。「ます田」さんも「よしむら」さんも近所なんです。

「ます田」さんはうなぎを食べたいと思ってふらっと入ったのが通いはじめたきっかけです。うなぎがふっくらしていて、タレも美味しかった。タレは地元の岩手で食べた味に似ていて、トロッとしてるんです。あと、うなぎができあがるまでに食べる焼き鳥も絶品です。焼き鳥屋さんのものより美味しいくらい。

「よしむら」さんではおつまみを食べながら、日本酒をちょびちょび飲んで、おそばで締める。ホロッと酔って、家に歩いて帰って、そのままバタンみたいな(笑)。それがハッピーなんです。

お店も人もその繋がりから、新しい出会いや発想が生まれるんです。これからもそんな縁を大事にしていきたいですね。