「関係者一丸」ができない理由

なぜもっと前から、うなぎの資源保護に取り組まなかったのか。そう思うのも無理はない。だが調べてみると、当事者はそれぞれの立場で対策を進めていたことがわかる。たとえば、うなぎの成魚を太くする「太化」(ふとか)に取り組み、一定の成功をおさめた例もある。1匹当たりの重量が大きくなれば、かば焼きにする容量も大きくできる。量と質を両立させるため、地道な取り組みが続く。

それでも「全体最適」にはならず「部分最適」の活動にすぎない。個人店が多く、日々の商売を営む「うなぎ店」が、商売を離れて、国内外の生産業者と連携することは簡単ではない。大手小売業も資源保護を意識した取り組みを進めているが、抜本的な解決策とはいえない。この問題を突き詰めると「水産行政」の問題に行き着く。

「外食」としてのうなぎの位置づけが変わる

うなぎ店には厳しい言い方になるが、ここまで価格が高騰してしまうと、「外食店」としての位置づけもむずかしくなる。今や、前菜から主菜、スイーツまでのコースが4000円という飲食店は珍しくない。「うなぎは食べたいが、そこまで支払うか」という消費者心理を考えれば、これ以上の値上げはむずかしいだろう。

「私どもの立場では、ご来店いただいたお客さまに、きちんとした調理と接客で『うなぎの魅力』を伝えていくしかありません」(関野氏)。元祖うなよしでは、ランチタイムに「ミニうなぎ丼」も提供し、“消費者と本格うなぎの出合いの場”もつくりだそうとする。

昔のような“儲かる夏”は過去の出来事――と関係者が話す「うなぎの現状」。今年の夏は厳しい暑さに見舞われているが、「土用丑の日」の厳しさはそれ以上かもしれない。

高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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