“セルフカフェ疲れ”の時代は続く

ドトールやスターバックスが牽引したセルフカフェの業態は、近年、厳しくなっている。コンビニの100円コーヒーが消費者の支持を集め、1杯200円台が多いセルフカフェの価格優位性も崩れた。また、1杯400円台であっても、カフェで過ごす時ぐらいはゆったりした空間を、とフルサービスを好む消費者も増えた。

筆者はこうした消費者心理を“セルフカフェ疲れ”と名づけ、放送メディアでも解説してきた。セルフカフェから一気に離れたのではなく、「その日の気分で店を使い分ける」という消費者が、簡単便利なセルフカフェに、以前ほど魅力を感じなくなったという意味だ。気ぜわしい時代の「ホッとする空間」として、フルサービス人気はしばらく続きそうだ。

「ドトールコーヒーショップ」を開発する前の鳥羽氏は、1971年の欧州視察先のパリで、セルフカフェのヒントを見つけた。実は“元祖セルフ”のミカドコーヒー創業者の金坂景助氏(故人)も、同じ視察ツアーの一員でホテルも同宿。親子ほど年の違う鳥羽氏(当時30代)の行動力に、金坂氏(同60代)が感服したという逸話が残る。

鳥羽氏は1980年代、ドトールコーヒーショップを「喫茶店の最終形」と位置付けた。だが、見込み通りにはならなかった。結果論だが、昔ながらの商品や業態を好む“ノスタルジー消費”として、フルサービス型の喫茶店が復権したからだ。

「神乃珈琲」をどう展開するか

そのノスタルジーに挑むドトールが、「神乃珈琲」を今後どうするか。最高級業態(戦略)と、高価格帯やこだわりの内装(戦術)といった手法は、急拡大できるものではない。将来の店舗数を10店前後に抑え、「ドトールコーヒーショップ」(低価格帯)から「神乃珈琲」(高価格帯)まで持つ、フルラインナップとしての位置づけだろう。

参考となるのは前述の「椿屋珈琲店」だ。同ブランドは「椿屋珈琲店」「椿屋茶房」「椿屋カフェ」で43店を展開する(2018年1月現在)。ただし「神乃」は、恐らく「椿屋」のような傘ブランド(複数ブランドの組み合わせ)にはせず、単独で展開するはずだ。

その理由は、前述した店名の由来だ。同社随一のコーヒー通の名字をアレンジした以上、実験店のままで終えることは許されない。試行錯誤をして、時には内容を見直すだろう。鳥羽氏の時代とは違い、同じ消費者が日によって業態を使い分けることも多く、個人の収入格差も広がった。時代性を踏まえた、同社の取り組みを見つめていきたい。

高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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