世界最大のハンバーガーチェーン「マクドナルド」を築き上げたレイ・クロック。彼のビジネス手法は多くの企業人に影響を与えている。なかでもファーストリテイリングの柳井正社長とソフトバンクグループの孫正義社長は、彼の自伝『成功はゴミ箱の中に』(プレジデント社)を「バイブル」と評している。同書を原作にした映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』の公開(角川シネマ有楽町ほか、全国公開中)を記念して、その卓越した経営手法を紹介しよう――。

「個人店」を「大手チェーン店」に変えた

新店舗のテープカットをするマイケル・キートン演じるレイ・クロック。(C)2016 SPEEDEE DISTRIBUTION, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

世界最大のハンバーガーチェーン「マクドナルド」の実質的創業者で、映画『ファウンダー』の主人公であるレイ・クロックは、外食産業の「FC(フランチャイズチェーン)システム」を構築した人です。ハンバーガー店の「マクドナルド」は、もともとマクドナルド兄弟の創業ですが、クロックは店のFC権を獲得します。彼の自伝『成功はゴミ箱の中に』によれば、「フランチャイズ店の売り上げのうち、1.9%が私の取り分となった。(中略)私の取り分のうち、0.5%はマクドナルド兄弟に納めることになった」と記しています。兄弟の個人経営の店(個人店)を全米に展開する「大手チェーン店」に成長させたのです。

現在、日本国内の大手飲食店の大半は「FC店」方式を採用しており、自社が経営する「直営店」と併用して店舗展開を行う会社が目立ちます。国内で約2900店を展開する「マクドナルド」のFC店比率は6~7割 、同じく1100店を超える「ドトールコーヒーショップ」は8割超がFC店です。レストランやカフェなどの外食産業が直営店でなくFC店を展開するメリットは、一般的には次のとおりです。

(1)直営店の出店に比べてコストが安い
(2)そのため、短期間で一気の店舗拡大が可能
(3)拡大が実現できれば、店舗やロゴマークの露出が増えて知名度も高まる
(4)加盟店側(FC店オーナー)も自前でブランドを創るのに比べて負担が小さい

FC店では、店舗建設や内装費用などはFC店オーナーが負担するので直営店に比べてコスト削減が実現できます。ただし、魅力のあるブランドでないと加盟者(主に自営業者や企業経営者)も集まりません。

そして店を展開する本部には、成功させる条件があります。「提携相手」です。かつてドトールコーヒーを創業した鳥羽博道氏に取材した際、筆者が「米国企業が日本で失敗する例は、米国流を押し付けるからではないか」と話したところ、こんな指摘を受けました。

「その通りですが、それに加えてもう1つ条件があります。外食産業の場合は特にそうですが『誰とパートナーを組むか』です。たとえばマクドナルドは、日本では藤田田さん(故人、日本マクドナルド創業者)と組み、ケンタッキーフライドチキンは、日本法人の設立メンバーだった大河原毅さんに経営を委ねました。だからこそ成功を収めたのです」

ドトールコーヒーの創業者が、マクドナルドを意識していたことにも気づかされます。レイ・クロックは提携相手の資質も厳しく見ており、藤田田氏とはウマが合ったと言われています。