7月29日から公開予定の映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』。主人公は世界最大のハンバーガーチェーン「マクドナルド」を築き上げたレイ・クロック。50代にして革新的なシステムで大成功を収めた姿を、彼の自伝『成功はゴミ箱の中に』(プレジデント社)をもとに描いている。「世界一のファウンダー(創業者)」を目指す彼のビジネス手法を、現代の識者はどう観るのか。映画公開記念の連続インタビュー、第2回は一橋大学大学院の楠木建教授です。

「ファウンダー」は秀逸なタイトル

映画を面白く観ました。上品なストーリーになっていると思います。というのは、ニュートラル(中立)な視点で描かれているということ。主人公のレイ・クロックは、もともと、マックとディックのマクドナルド兄弟が経営していたハンバーガーショップの成長性に目をつけ、今日の巨大ハンバーガー帝国を築き上げた人物です。クロックの著書『成功はゴミ箱の中に』(プレジデント社)も早くから読み、その内容を僕の『戦略読書日記』(同)でも取り上げましたが、レイ・クロックに対する印象は映画を観ても変わりませんでした。

新店舗のテープカットをするマイケル・キートン演じるクロック。

まず、映画の「ファウンダー」(創業者)というタイトルが非常にうまいな、と――。

観る人によって意見が分かれる映画で、「マクドナルド兄弟こそがファウンダーだ」と思う人もいるでしょう。マクドナルド兄弟も、レイ・クロックもそれぞれにファウンダーといえますが、僕は「レイ・クロック『こそが』ファウンダー」だと思います。彼がいなければ、現在、我々が当たり前のように食べているハンバーガーチェーン店「マクドナルド」はありえなかったからです。

彼の自伝である単行本を『戦略読書日記』で取り上げた時、こう記しました。

僕の勝手な想像だが、クロックはマクドナルドの店でハンバーガーを食べながら30分だけ話を聞くぶんにはものすごく楽しい人だが、一緒に仕事するとうんざりすることもしばしばありそうだ。 (中略)

クロックの本は、ビッグマックとマックフライポテト(もちろんLサイズ)を口いっぱい頬張りながら、「このとき俺はこう思ったんだよね。なんと! そしたらさあ、これが驚きの……」などと自分の話(わりと自慢話が多い。というか、ありていに言って自慢話と武勇伝のオンパレード)を、相手の気分はお構いなしにわんわんとがなり立てているようなテイストに仕上がっている。(以下略)

一方、映画はマクドナルド兄弟からの視点も描かれていますが、過剰に兄弟に肩入れもしていない。ニュートラルと評したのはそういう意味です。