「競争戦略」におけるマクドナルド

店の厨房で従業員に指示するクロック。

日本における「マクドナルド」も、一時期の低迷を脱して盛り返してきました。日本1号店が開業したのは1971年ですから、今年で46年になります。国内店舗数も約3000店あり、完全に定着した「生活の一部」となりました。

僕の専攻は「競争の戦略」で、具体的には競合に対して違いをつくることです。その視点で現在の「マクドナルド」を見ると、「良くも悪くもない」。

事業の内容は昔も今も変わっていません。ハンバーガーやフライドポテトという商品を軸にした経営で、これまでの歴史で多少の浮き沈みがあっても、そのつど盛り返してきました。半世紀近くの間に消費者は成熟し、ハンバーガーは日本人にとって「憧れの食べ物」から「日常の食べ物」となりました。でも今も、外食チェーン店としての存在感は高い。

2017年になっても「マクドナルド」という店は、便利で確実で値段も安く、提供も早い――。レイ・クロックが構築したシステムというのは、まさにこれで、時代が変わってもこのシステムで行けるはずという確信があったと思います。

最後に、この映画で描かれたのは、競争社会における「健全な米国型の資本主義社会」でした。手っ取り早く一発当てて金持ちになりたいということではなく、均一化や平準化の視点で効率的に外食チェーン店を拡大するという、真っ当な「実業」です。

かつて、角川映画の宣伝コピーに「読んでから見るか」「見てから読むか」というのがありました。この映画も、そして本も、久しぶりにそのコピーを思い出す内容でした。

楠木建 (くすのき・けん)一橋大学大学院・国際企業戦略研究科教授
1964年東京都生まれ。92年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授などを経て2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(プレジデント社)など。
(構成=経済ジャーナリスト 高井尚之)
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