ちなみに「神乃珈琲」の「かんの」は、菅野氏の名字をアレンジしてつけられている。2011年に開業し、現在、国内で約210店(2018年4月時点)を展開する「星乃珈琲店」が、ドトール・日レスホールディングス社長の星野正則氏の名字からアレンジした先例がある。社長や取締役の名字を店名につけるのは、上場企業では珍しい。個人店(個人経営の店)のようであれ、という思いだろうか。

神乃珈琲京都店で提供されるブレンドコーヒー(編集部撮影)

菅野氏は、ドトールのコーヒー事業とともに歩んだ経歴を持つ。1979年に入社すると、若い頃からコーヒーへの意識の高さが創業者の鳥羽博道氏(現名誉会長)の目に留まり、コーヒーの製造技術を磨いた。同社が手がけるパスタ店「オリーブの木」の事業本部長も歴任し、2008年からは商品生産統括本部統括本部長も務めた。星乃珈琲店でも、カップオブエクセレンス国際審査員の肩書で広告塔を務める。大手チェーン店の社員では珍しく、日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)理事でトレイニング委員会委員長も務める。

喫茶文化の潮流を変えたドトール

ドトールといえば、1980年に1号店を開業して以来、全国に1122店(2018年5月末現在)を展開する「ドトールコーヒーショップ」が有名だ。これは首位「スターバックスコーヒー」の1342店(2018年3月末現在)に次ぐ国内2位の店舗数だ。かつては圧倒的な首位だったが、最近は無理に拡大せず、「星乃珈琲店」など他業態の展開に注力する。

実は、戦後の日本の喫茶店は10~15年ごとに潮流が変わった。これを10年前に筆者に教えてくれたのは、フードビジネスコンサルタントの永嶋万州彦(ながしま・ますひこ)氏で、永嶋氏は元ドトールコーヒー常務。若き日の菅野氏の上司でもあった。

その潮流をかいつまんで説明すると、1960年代は「個人店(個人が経営する喫茶店)の時代」で、1970年代から「喫茶チェーン店の時代」となり、1980年代半ばには「セルフカフェ」の時代となった。「喫茶チェーン店の時代」には、ドトールの経営する「コロラド」(最盛期は250店。現在は約60店)が、1972年に川崎市にFC(フランチャイズチェーン)1号店を開店。その後、直営1号店を東京都世田谷区の三軒茶屋に開いた。この成功体験が次につながる。