「カスタマー・ファースト」を掲げるアマゾンからすれば、出版流通のこうした状態は容認しがたい。ならば、取次を通して間接的に在庫状況を問うよりも、直接出版社に確認して書籍を調達したい――。欠品率を劇的に改善するために、アマゾンは前述の「バックオーダー発注停止」と同時に、返す刀で直取引の拡大に踏み切った。
今年2月2日に開かれたアマゾンメディア事業本部書籍事業方針発表会によれば、2017年の1年間で、760社が新たに直取引(部分も含む)を導入したという。そのうち、アマゾンとの取引高が1億円を超える会社は55社。直取引の導入出版社数は、累計2329社にものぼるとアマゾンは自称している。
なぜ、これほどの数の出版社がアマゾンとの直取引を始めたのか。ひとつには、中堅取次会社の破綻が影響している。15年6月に栗田出版販売が民事再生法適用を申請し、16年2月には太洋社が自主廃業を発表した。栗田の民事再生以降、アマゾンはひっきりなしに出版社に向けて直取引の勧誘説明会を開催してきた。「取次よりも条件面で優遇する」とうたい、口説いて回ったのだ。その結果が、先の数字だ。
「完璧な注文システムを構築する」野望
出版社は、「アマゾンへの依存率が高まり、今後不利な条件を出されても言いなりにならざるを得なくなるかもしれない」という懸念を抱きながらも、取次からの入金額が減っていく昨今、少しでも売上を上げたいという気持ちが勝ったようだ。また、小さな出版社は「日販は大きい出版社しか相手にせず、在庫を置いてくれない」と考え、それならばと、直取引を選択していった。在庫管理が正確ではないアナログ出版社でも、直取引専用の売れ行き管理システム「e託セントラル」を提供されることで、どうにか注文処理を行い、アマゾン倉庫への直接配送を行える仕組みが確立された。
さて、それでは、アマゾンと出版社による直取引の拡大は、利用者には何をもたらすのだろうか? それは、これまでの出版業界ではなし得なかった、頼んだものがすぐ、確実に届く完璧な注文システムだ。アマゾンは、「ここで購入できない商品は、世の中には存在しない」といえるくらいの注文システムを、本気で実現しようとしている。