リアル書店では、「アマゾンは読者にすぐ配送できるのに、なぜうちは注文しても本が来ないのか」と書店員が悩む事態が起きている。例えば顧客から書籍3点の注文をもらって、1点だけ取次にも出版社にも在庫がなかったり、調達に時間がかかったりする場合、書店がアマゾンから購入し、3点そろえて顧客に販売することすらあるという。

取次から購入していては時間がかかるので、儲けが出なくともアマゾンで買ったほうが早いというわけだ。それだけアマゾンの倉庫には潤沢に在庫があり、商品調達においても優れたシステムが構築されているといえる。

取次はこの流れにまったく追いつけていない。取次各社は効率化の名の下、地方の在庫拠点を撤退している。一方アマゾンは、「24時間以内配送」を多くの地域で実現するために、小田原、鳥栖、堺など倉庫を各地に次々と設置していった。まるで真逆なことをやっているのだ。これでは、かなうはずがない。

対等に交渉できない小規模出版社が危険

アマゾンの行動とその成長は、ほとんど良いことずくめに思える。ただ懸念もある。小規模出版社はこの流れで淘汰されてしまう恐れがあるからだ。

出版業界には、メーカーである出版社が書籍の価格を拘束することを法的に認める「再販売価格維持制度(再販制度)」があり、出版社はこれによって守られてきた。今後再販制度がなくなり、売り手が販売価格を自由に設定できるようになったとき、小規模出版社がアマゾンとどれだけ交渉できるのかは、はなはだ疑問である。

小規模出版社は、出版文化の多様性を支えている。たとえば『ハリー・ポッター』シリーズを翻訳出版してブームをつくったのは、もとは社会派の小さな会社だった静山社だ。また新興の出版社「左右社」は、古今の有名作家たちが〆切についてつづる名随筆集『〆切本』を刊行して話題を呼んだ。日本の出版物が多様なのは、こうした個性ある出版社があったからだ。

現時点で、アマゾン経由の出版社の売上は全体の2割以上を占めると言われるほど、依存度は高まっている。アマゾンに抵抗できずに小規模出版社がつぶれてしまえば、この多様性は失われてしまう。アマゾンが与えてくれるあらゆる利便性に浸り過ぎていると、いつか手痛いしっぺ返しを食らうかもしれないことだけは、覚えておいたほうがいいだろう。

佐伯雄大(さえき・ゆうだい)
出版流通ジャーナリスト
(写真=iStock.com)
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