部長が倉庫を出た隙に急いで撮影を済ませ、後ろ姿を追って、
「あのミッキーをかぶりたいんですが」
と聞いてみた。だが部長は、
「今は客が少ないから使ってないのよ」
という。
「じゃあ客が多い時は使うんですか?」
と問うと、
「いや、そういうわけでもない」
と濁された。とにかく今はもう使っていないらしい。無念である。
控え室に戻り、隣の席に座っていたひっつめ髪の女性に話を聞くと、
「開園直後は現場の判断で使っていたが、上層部にバレて使用停止になったみたい。ミッキーやドナルドダックは著作権があるから、使ったらマズイのよ」
と教えてくれた。
「じゃあ七人の小人はいいの?」
と聞くと、「小矮人没問題(=小人は大丈夫)」と断言し、こう続けた。
「七人の小人に著作権はないから」
小人については西遊記や桃太郎などのキャラクターと同様で、誰の物でもないと捉えているようだ。だが、単なる「小さい人」であれば著作権はないだろうが、あの独特な目つきや表情は、誰がどう見ても「ウォルト・ディズニー・カンパニー」のキャラクターである。
すぐに実力を見抜かれてしまった
パクリミッキーの事情を教えてくれた彼女は「楊玲(ヤンリン)」という名で、この遊園地がオープンした2014年からダンサーをやっているという。目が細いぽっちゃり体型で、あまり美人とは言えないものの、活発でよく笑う明るい雰囲気。中国人の妻との生活を描いた井上純一氏の「中国嫁日記」に登場する妻のユエさんを思わせるような人懐っこさを感じた。
9時の開園時刻に合わせて行われるオープニングダンスを見学し、その後は14時から始まるパレードの振り付けをリーダーの女性からマンツーマンで教わった。25歳だというリーダーは細身でスタイルが良く、目もぱっちりしていて結構美人。私は小人の着ぐるみを希望したが、
「もっと背が低くないとダメ」
と言われて却下されてしまい、小人と一緒に行進するピエロの役を与えられた。
リーダーは、
「一、二、三、四(イー、アル、サン、スー)」
と口ずさみながら軽快にステップを踏み、両手をひらひらさせたり手を振ったりしながら、ダンスを見せてくれた。やってみると右足と左足を逆に踏み出してしまったり、ステ
ップのタイミングが合わなかったりと、なかなか難しい。スピードもかなり速い。
リーダーには、「着地が安定していない。ダンスの経験はあまりなさそうね」
とすぐに実力を見抜かれてしまった。リーダーのダンスをスマホの動画で撮影させてもらい、テンポを半分にして自主練することにした。この日から、空いている時間はひたすらダンスの自主練をすることになった。