北京と上海の中間ぐらいにある中国沿岸部の田舎町に、一見して「ディズニーランド」のような遊園地がある。ここまで堂々とパクるのは、なぜなのか。フリーライターの西谷格氏は、現地の人々に混じって「着ぐるみ」のアルバイトをして、彼らの日常の姿に迫った。公然と著作権を無視する人たちの本音とは――。

*本稿は、西谷格『ルポ 中国「潜入バイト」日記』(小学館新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

日本人でも即面接、即採用

山東省煙台市は、北京と上海の中間ぐらいに位置する沿岸部の中規模都市。遊園地の場所を中国版グーグルマップ「百度地図」で検索すると、煙台市からさらに直線で60キロ以上離れていた。そんな田舎の遊園地が、外国人である私を雇ってくれるのだろうか。恐る恐る電話をかけると、ダミ声の中年女性が電話口に出た。

「もしもし、何の用ですか?」

単刀直入に本題を切り出す。

「そちらの遊園地で仕事がしたいんです。着ぐるみを着たいのですが」

と聞いてみると、

「給料はいくら欲しいの? とりあえず事務所に来なさい」

と言われ、いきなり好感触。上海在住だと伝えると、「上海人か?」と聞かれたので、正直に日本人と答えた。それでも特段こちらを怪しむような気配はない。数日後に行くと約束し、飛行機とバスを乗り継いでたどり着いた。

『ルポ 中国「潜入バイト」日記』(西谷格著・小学館刊)

遊園地のゲート付近にあった事務所を訪ねると、電話対応してくれた中年女性が現れた。髪をポニーテールに結んでメガネをかけており、なかなか品が良さそうだ。面接はパレードを担当している「演芸部」の部長が担当すると言い、先方の用意した簡単な履歴書(アンケート用紙レベル)を記入した。

面接は5分程度で終了し、翌日電話をかけると「2~3日試用期間で様子を見て、本採用になったら給料は月々1500元(約2万2500円)でどうだ」と提示され、「好的(=ハオダ、いいですよ)」と答えた。あっけないほど簡単に採用されてしまった。

明日の朝8時にここに来いという。

なぜ、パクるのか?

面接後、客としてもパクリキャラを見ておきたいと思い、パーク内に入場してみた。入園料は200元(約3000円)。スタッフの月給の1割以上と考えると、現地では相当に高額であることがわかる。お金に余裕のある富裕層や、北京・上海あたりの都市住民しか相手にしていないのだろう。

チケットを見せてゲートをくぐると、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでおなじみの、地球儀のような球体のオブジェがいきなり目に入った。その奥にはシンデレラ城っぽい西洋風の城がそびえ立っているが、建築中なのか改装中なのか、仮設の足場で囲まれていてみすぼらしい。