パクリは是か非か

3日ほど勤務した後、初日に面接した事務所に向かった。そろそろ切り上げよう。最初に電話応対してくれた女性がいたので、

「上海に戻る用ができた」

と言うと、

「あっそう、わかったわ」

と言われ、辞めるのも簡単だった。同僚たちには何も言わずに辞めることになったので、「突然来て突然消えた謎の日本人」と思われるだろう。

「ありがとうございました」

と挨拶すると、女性は、

「じゃあ3日分の給料渡すわ」

と言って、試用期間ながら200元(約3000円)を渡してくれた。こんな短期間で辞めたら給料なんて払われないだろうと思っていたのに、意外と良心的で驚いた。

パクリ遊園地での勤務を終えて、私も感覚が麻痺してしまったのだろうか。彼らの著作権意識がお粗末なのは言うまでもないが、だからといって、声高にけしからんという気にもなれないでいる。

著作権という概念は、人類の歴史で見れば、比較的新しい権利だ。民主主義や法治主義といった西洋近代の価値観が根付いていない中国では、著作権がまともに保護されないのは当然かもしれない。中国人の本音を代弁するなら、どうして西洋人が勝手に決めたルールに従わねばならんのだ、と思っているはずだ。

それに、この遊園地があるのはかなりの田舎。北京や上海で大々的にパクったら問題にもなるだろうが、外国人が一人もいないような土地では、少しぐらい見逃してやりたい気もする。中国のとある田舎町にひっそりと存在するパクリ遊園地なんて、ちょっと面白いではないか。

なお、この遊園地は2018年3月時点で、いまも営業を続けている。

西谷格(にしたに・ただす)
フリーライター
1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞の記者を経て、フリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。主な著書に『この手紙、とどけ! 106歳の日本人教師歳の台湾人生徒と再会するまで』『中国人は雑巾と布巾の区別ができない』『上海裏の歩き方』、訳書に『台湾レトロ建築案内』など。
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