ここまで述べてきたことをまとめて考察すると、勝ち組企業のビジネスモデルはアリババやテンセントがフィンテック分野で体現しているようなモデルだと言うこともできます。「銀行になろうと思えばいつでも銀行になれる企業」です。

銀行は決済、融資、預金という3つの事業を展開するものですが、アリババは預金も2~3%の金利は楽に提供できるので、店舗がなくても、あるいは店舗がないがゆえに、瞬時に世界最大の銀行になれるでしょう。国策でゼロ金利を出しているような国から、全ての預金を吸い寄せることができるからです。

日本は再び「戦艦大和」を造ろうとしていないか?

冒頭でも述べたように、今のままでは近い将来、銀行はもとより、さまざまな分野において日本は中国に好きなように操られてしまうでしょう。

かつて日本は、それまでの考え方にとらわれていたために世界に太刀打ちできず敗者となる、という苦い経験をしています。日本は太平洋戦争時に、史上最大級の戦艦大和と武蔵を造りました。「モノづくりの力」にこだわり、磨き上げ、日本が持つ技術力を結集して莫大な労力と費用をかけて、世界に類を見ない巨大な戦艦を造ったのです。

当時すでに、航空母艦や戦闘機、爆撃機など、航空戦力が勝敗の鍵を握る時代になっていたにもかかわらず、日本の造船会社は高度な技術を持っていたため、それまでの延長線上で“いいモノ”を造ったのですが、その結果はご存じの通りです。

実際、大和も武蔵も素晴らしい戦艦でしたが、米国の航空母艦と戦闘・爆撃機に徹底的にやられて、大和は表舞台に出る前に、武蔵はフィリピンまで到達してあえなく沈没してしまいました。

何を言いたいのかというと、今の日本企業もいつまでも20世紀の発想、やり方にとらわれ、それを磨いていくことだけに気をとられていると、かつての大和や武蔵のように簡単に撃沈されてしまうだろう、ということです。

日本では企業による規模を求めた合併吸収が増えています。鉄鋼会社に銀行と、どの業界を見ても合併吸収の話ばかりです。もっとほかに考えるべきことがあるのではないか。今、多くの日本企業が持っている発想は、かつて大和や武蔵を造って世界と戦おうと考えていた頃とあまり変わっていないのではないかと思うのです。

私は日本企業にはもっと抜本的に今までと違うこと、やった経験がないことをやってほしい、と思っています。もはや技術を磨いていいモノを作っていさえすれば売れる時代、勝てる時代ではないのです。

大前研一(おおまえ・けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長
1943年、北九州生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で、博士号取得。日立製作所を経て、72年、マッキンゼー&カンパニー入社。同社本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。近著に『ロシア・ショック』『サラリーマン「再起動」マニュアル』『大前流 心理経済学』などがある。
(写真=iStock.com)
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