※本稿は、大前研一『勝ち組企業の「ビジネスモデル」大全』(KADOKAWA)Part1「大前式『21世紀のビジネスモデル』の描き方」を再編集したものです。
中国企業に先を越される日本
現代はデジタル・ディスラプション、つまりデジタルテクノロジーによる破壊的イノベーションの時代です。そんな時代において、これまで通りのやり方、今までの秩序を維持している日本企業は、米国や中国の先進的デジタル企業=“まったく新しい染色体を持った企業”に一気に先を越され、市場とお客さんを根こそぎ持っていかれてしまうのは目に見えているでしょう。
いまだに20世紀の発想とやり方を引きずっている日本を横目に、21世紀に向かってすごいスピードで動いているのが中国であり、アリババやテンセントのような企業です。
今アリババ・グループは、これまでの経営者、よその国ではまずできないようなことをやっています。スマホとQRコードを使ったオンライン決済システム「アリペイ(Alipay=支付宝)」だけでなく、最近では「顔認証」による決済システム「smile to pay(笑顔でお支払い)」サービスのテスト運用を開始したと発表して、世界を驚かせました。もはや支払いのためにスマホを取り出す必要もない、ということです。
もう1つアリババの強みは、お客さん(ユーザー)の数です。アリババは約8億人のユーザーを抱えていると言われていますが、ただ漫然とした8億人という塊ではあまり意味がありません。アリババがこの8億人に関する長年にわたるさまざまなビッグデータを蓄積・解析して活用できるようにしたことが重要なのです。それがアリババの提供しているサービス「芝麻信用」(セサミ・クレジット)です。ネットショッピングや決済などの行動履歴、蓄積したデータベースを活用して各ユーザーに、その人の信用度の高さを示す350から950までのクレジットスコア(信用評価点)をつけているのです。
中国人が約束を守るようになった理由
「芝麻信用」のシステムの素晴らしい点は、ビッグデータの解析によって本当に信用度の高い人とそうでない人が明確になるという点です。日本のように、ある程度の年収があってクレジットカード会社に年会費をたくさん払えば、ゴールドカード会員やプラチナカード会員になれるという曖昧なものではないのです。
アリペイや芝麻信用の普及によって、中国人のライフスタイルやマナーにもさまざまな変化が起こっています。そのなかの面白い変化の1つが、「約束を守るようになった」ということです。かつては電話やネットでホテルやレストランを予約しても、当日その人が現れないということが多かったのですが、今、中国では、ほとんどの人が予約を守るようになったというのです。