「将来有望な若手行員が辞めていく」
地方銀行に勤めるかつての級友が上京して懇親する機会を得た。その級友曰く、「優秀な人材が採れないばかりか、将来有望な若手行員が辞めていくケースが増えている。どうしたらいいものか」と思案顔だった。級友は人事も所管する役員だけに悩みは深いようだ。
これまで地銀は、それぞれの地元にあって最優良な就職先というのが定番だった。実際、就職の際の競争率も高く、優秀な人材が集まってきていた。それはもはや過去の夢なのか。
地銀を取り巻く環境は、低金利環境の継続、人口減少・高齢化、デジタライゼーションの進展等を背景に厳しさを増している。若手行員の流出はそうした苦しい地域金融機関の現状を如実に表しているのか。件の友人は「将来に希望が持てなくなったのかもしれない」と嘆いた。
地方銀行は、かつて地域の就職ランキングでは常にトップ3に入る人気就職先だった。「地銀は県庁、地域の電力会社と並ぶ“就職御三家”と呼ばれていた。地元の有力大学や高校の卒業生のみならず、東京など大都市圏の有名大学を卒業した若者もUターン就職先として最初に選ぶのが地元の地銀だった」(九州の地銀幹部)という。金融界では、こんな笑い話も残されている。
高齢世代では都市銀より地銀信奉が根強いが…
東京大学を卒業し、富士銀行(現みずほ銀行)に就職することが決まった高知県出身の青年が、勇んで帰郷した。母に日本一の銀行と呼び声の高かった富士銀行から内定をもらったことを報告するためだった。しかし、母親の最初の一言は意外なものだった。
「なんで好き好んで静岡の銀行なんかに行かにゃならんの? 地元の四国銀行があるじゃないの」と嘆かれたというのだ。都市銀行の富士銀行よりも地元の雄、四国銀行のほうが大きいと母親は勘違いしたためだ。それほど高知での四国銀行の知名度は高く、エリートが入るというのが地元の常識だった。
今も、高齢者にはこうした地元地銀を信奉する意識は根強いが、肝心の就職する若者には地銀の人気は長期低落傾向にあるようだ。
ブンナビ(文化放送就職ナビ)が行った学生アンケート調査(20年1月)によると、就活中の学生が志望している業界はどこかという質問に対し、最も志望者が多かった順で、①食品・住宅(34.2%)、②通信・情報(22.7%)、③マスコミ(19.3%)、その後商社や鉄道・運輸、自動車・電機・電子と続き、注目の金融業界はコンサルティング、不動産よりも下位の保険(9.8%)、メガバンク・地方銀(8.5%)、証券(6.2%)で、いずれも12位以下と見る影もない。