日本を体験するだけで、中国人には癒やしになる

――私も3年前、北海道に爆買いの取材に行ったとき、観光関係者の方から、「中国の方は雪合戦をして、雪景色を見て、ソリに乗っているだけで十分喜んでくれる」というお話を聞いて、目からウロコが落ちました。インバウンドの盲点ではないかと。ほかに、美しい田んぼの稲を見て感激したという人もいました。「なぜ、日本の畝(うね)はあんなにまっすぐで曲がっていないのか? 日本人は本当にきちょうめんだ」と(笑)。えぇ~、そんなところに感動してくれるの? と思いましたね。

よくわかります。日本人にとっては当たり前の風景でも、中国にはないものが日本にはあるんですよね。そのままの日本を体験するだけで、彼らには癒やしになる。日本のインバウンド関係者と話していて、意外と見落とされているポイントではないかと思います。

――同感です。ところで、ご著書には、日本の食べ物に関する記述もたくさんあって興味深いです。たとえば、訪日中国人が「日本のミシュランは安い!」と感じているというところ。ミシュランで星がつくような高級店は、上海より断然安くてお得だと……。

たとえば、上海ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション。ラトリエはロブションのカジュアル版ですが、日本では1万円以内でコース料理が食べられます。ところが、上海ではサービス料などを入れると1人2000元(約3万4000円)は確実にかかってしまいます。また、上海ではミシュランで星のつく日本料理店はありませんが、高級店で2万5000~4万円はします。しかも、ネタの新鮮さは日本のほうがはるかに上。日本では、ミシュラン3つ星の日本料理店でも3万円程度で食べられますから、クオリティの差まで含めると、プチ富裕層には安く感じられるのです。

――この話は日本人にとって驚きだと思います。

そうですね。中国に日本から食材を空輸すれば、値段は跳ね上がりますが、日本産食材の安全性と新鮮さにお金を払うわけです。日本に来れば、空輸よりも新鮮な食材がいただけるのですから、お得感はさらに増します。

中国に大衆点評という、日本の「食べログ」のような、非常に有名なクチコミグルメサイトがあります。これを見ていると、客単価2~3万円もするお店に、レビューが100件以上も書き込まれています。その背景には、メンツを重視する中国人の性格があります。「私はこんな高級店に行ける人間なのだ」とSNSで自慢したい、という気持ちがあります。

――私も以前、大衆点評の担当者にインタビューしたことがあるのですが、そのとき「まだ中国で知られていない日本のレストランを自分が最初にクチコミした人になりたい、という欲求もある」という話を聞いてビックリしました。日本旅行中に大衆点評に投稿している人も多く、それを見た別の中国人旅行客が、またそこに訪れるという相乗効果もあると。中国のSNSのすさまじいパワーを感じましたね。

(後編に続く)

袁静(えん・せい)
行楽ジャパン社長
中国上海市生まれ。北京第二外国語大学卒業。日本に留学後、日本の出版社に勤務。上海に帰国し、中国の富裕層向けに日本の魅力を伝える雑誌『行楽』を創刊。現在は上海と東京にオフィスを構え、中国での日本の観光PR分野で活躍している。
(写真=iStock.com)
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