日本のレディースクリニックに多くの中国人が受診に訪れているという。なぜ中国ではなく、日本での受診を望むのか。自らも不妊治療を経験した生殖医療専門医で、オーク銀座レディースクリニックで診療を行う田口早桐氏は「中国での不妊治療は必ずしも環境がよくない。不妊に悩む女性へのサポートでは、日本のほうが先行しています」と語る――。

「銀座なら通いやすい」

銀座にレディースクリニックを開院して、まる1年がたちました。もともと、私は大阪にあるオーク住吉産婦人科で、不妊などを専門に診察をしています。オーク会は他に大阪の梅田となんばにレディースクリニックを開いている在阪のグループです。ですので、私は現在、大阪から東京まで通って、診察を行っています。平たく言うと、「東京進出」したわけです。

大阪で「銀座にクリニックを開院した」と話すと、「儲かってますな」と言われます。でも、この場所に決めたのにはある理由があるのです。ひとつは、関東から大阪のクリニックに通院されている方々の負担を減らすことです。そしてもう一つが、海外から訪れる相談者や患者に対応するため。特に近年増えているのが、中国人の方々です。中国籍の相談者のなかには、日本在住の方もいらっしゃいますが、中国から受診にいらっしゃる方のほうが圧倒的に多くなっています。

銀座にはたくさんの産婦人科があり、まさに「不妊クリニック銀座」なのです。それだけ集中する背景には、海外での知名度が高く、羽田空港からのアクセスも確立されている点があると思います。大阪のクリニックに訪れる方からも、「東京にあれば通いやすいのに」という声がとても多かったのです。

背景にある「一人っ子政策」廃止

「オーク銀座レディースクリニック」のエントランス

ここ数年、中国人の相談者は驚くほど増えています。大きな要因は2015年12月に、「一人っ子政策が廃止」されたことです。中国では長らく「一人っ子政策」が行われていたため、産婦人科への関心そのものが低かったように思います。ただ、中国には結婚すると女性が財産を持って嫁ぐ文化があるので、「男の子がほしい」と思う人は多く、男女の「産み分け法」について尋ねられることもありました。

「一人っ子政策」が廃止になり、中国でも不妊などの悩みを抱える女性が顕在化し、産婦人科のニーズは高まりました。それまで、中国では不妊や高齢出産など妊娠に悩む方の相談を受け付ける場所がほとんどなかったのです。現在でも女性の要望に応えられる「レディースクリニック」は圧倒的に足りません。そこで、比較的近く、医療の質が高い日本のレディースクリニックに多くの方が訪れるようになった、というわけです。