東京でも星空がよく見えることに中国人は驚く

――なるほど。実は、私は拙著『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』の中で、まさにその富裕層という言葉を使ってしまった(笑)のですが、私がイメージしていたのもまさに袁さんとほぼ同じで、中国の中間から少し上の層。経済的に豊かになってきて、情報感度が高く、洗練されてきた人々のことを指しています。

日本では、マスコミの影響からか、中国人のお金持ち=「成り金」だと極端にイメージしてしまう人もいるかと思いますが、そういう人々は、たとえ個人旅行であっても「日本の老舗」にはあまり興味を示さないでしょう? ホンモノ志向で、文化や伝統を大事にする、新鮮な感覚の持ち主が増えてきているんですよ、ということがいいたかったのです。

それで、本の帯は「ディズニーランドより加賀屋や根津美術館、唐招提寺に惹かれる理由」とつけました。プチ富裕層の方々は地方のシブいところやマニアックなところにも出かけていますし、私が知らない地名を中国人から聞かれてビックリ、ということもよくあります。日本人にとってごく普通のことに感動してくださるので、驚くと同時に、日本人としてありがたく、うれしくなってしまうのです。

私が中国で発行している雑誌『行楽』のターゲットも、日本を個人旅行するプチ富裕層たちです。彼らの価値観や行動パターンは、おそらく日本の一般の方々がイメージしている中国人観光客の姿とは、大きくかけ離れているのではないかと思います。

――日本のメディアで取り上げられるのは、団体客ばかりですからね。

「深度游(シェンドゥヨウ)」という中国語があります。深みのある旅行という意味です。ゴールデンルートの数日間、駆け足で回るような表層的な旅は嫌だ、日本の社会や文化を掘り下げて知りたいと彼らは思っているのですね。

――そもそも、中国人がどうしてこんなにも日本にやってくるのか、ということとも大きく関係があるように感じますが。

中国ではどんなにお金を出しても買えないものが、日本には「フツーにあるから」という点が重要なポイントだと思います。

中国の一部の都市ではPM2.5など公害が問題になっていますが、そんな街から日本にやってくると、空気のよさは感激ものです。これは飛行機に乗っているときから明らかで、窓の外の景色が違うのです。地上の風景があまりにクリアに見える。日本人は知らないでしょうが、実は着陸前から撮影大会は始まっているんです。

東京でも星空がよく見えることに中国人は驚きます。東京や大阪では空を見上げる余裕もないでしょうが、地方の温泉に出かけたときなど、露天風呂で自然と空を見上げるんですよ。また、広州など、中国の南方では雪が降りません。だから、雪を見るだけでも感激します。