アリペイは銀行口座に紐づける必要がある
では銀行が「投資銀行型」「プライベートバンク型」に特化すれば道が拓けるかというと、そう簡単ではない。4つの未来像の機能は完全に分離するわけではなく、連携しているからだ。
企業や個人に資金を貸し付ける際、個人預金がなくて外部から調達すると、当然ながらコストが上がる。つまり「モバイル型」で多くのユーザーとの接点を残して、個人預金を確保しておかないかぎり、「投資銀行型」「プライベートバンク型」の競争力も失うのである。結局、個人預金が起点になるわけで、預金を集められる銀行とそうでない銀行の体力差が如実に表れてくるだろう。
さまざまな角度から見て、銀行が苦境に立たされていることは間違いない。ではビル・ゲイツが予測したように、銀行は不要になるのかといえば、銀行という機能そのものがなくなることはないだろう。あれだけ電子マネーが席巻している中国でも、アリペイは銀行口座に紐づける必要があり、銀行は存続している。
しかしユーザーはアリペイというインターフェースは意識しても、紐付けている口座はどこの銀行か、ほとんど気にはしてない。かように銀行は経済活動を下支えする存在になり、インフラ化していくのではないか。
他業種に商圏を奪われることで、銀行の淘汰や統合は進んでいくだろう。筆者の記憶によれば、フィンテックという言葉が出てきた2013年ごろ、銀行が追い詰められる雰囲気は全くなかった。つまり5年あれば、状況は想像を超えて激変するに違いない。しかしそのとき、サービスプレーヤーに「ここは紐付けしやすい」「すぐに決済できる」と選んでもらえる銀行になったら、シェアを総取りできるはずだ。
テクノロジーアナリスト
GFリサーチ合同会社代表。愛媛県生まれ。日本生命保険で外国株式ポートフォリオマネージャー、フィデリティ投信でテクノロジーセクター証券アナリストを経て、2013年、GFリサーチおよびナビゲータープラットフォームを設立。東京工業大学大学院非常勤講師。著書に『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)。