父親の死後、シュルツは舵を切り替えた

10代のころ、シュルツは父親とよく衝突しました。父親の失敗が恥ずかしかったのです。彼の回想によると、「父は出世していないし、無責任だ、と苦々しく思っていました。頑張れば、もっと成功できたのに」。シュルツは、この生活から逃れようと決心しました。「私をいつも突き動かしていた気持ちのある部分には失敗への恐れがありました。自滅することの意味をわかりすぎるくらいわかっていました」

シュルツの人生で最も悲しい日が訪れました。父親が亡くなったのです。友人に父親との葛藤のあれこれを話しているときに、その友人が言いました。「もしもお父さんが成功していたら、君をここまでかき立ててくれるものはなかったのではないか」。父親の死後、シュルツは思いを改めました。父親は家族に対して正直であり責任感を持っていました。彼は敗北者だったのではなく、世の中のしくみに押しつぶされたのでした。

シュルツは舵を切り替えました。彼の父親がきっと誇りをもって働いたに違いない、そんな会社を作りました。最低保障賃金より多くの賃金を払い、充実した福利厚生を用意し、全社員にストック・オプションを提供することにしました。それは彼の父親が決して受けることができなかったもので、会社の価値に共感してくれる従業員を強く魅了しました。その結果、スターバックス社の離職率は、ほかの同業者に比べて半分未満にとどまっています。

ビル・ジョージ
ハーバード大学ビジネススクール・シニアフェロー
2001年までは最先端医療技術企業メドトロニックの会長兼CEO。01~02年、全米トップ経営者25人の1人に選出された。その後、ハーバード大学ビジネススクール教授に転じ、現在はシニアフェロー。『True North リーダーたちの羅針盤』を含め、リーダーシップ論に関する5冊の著書を持つ。
(写真=ロイター/AFLO)
関連記事
日本社会が体に"毒"がたまりやすいワケ
働きながら自分の天職を見つけ出す方法
スタバが"座席ゼロ店"を駅ナカに出す理由
スタバ満足度「圏外」に落ちた3つの理由
管理職とリーダーの「決定的な違い」とは