行き詰まった現状を打破するにはどうすればいいのか。「プレジデント」(2017年12月4日号)では、4人の識者に「最高の自分」をつくる方法を聞きました。第4回のテーマは「人生を意味のあるものにしたい」。取り上げるのは、スターバックスコーヒーの創業者・ハワード・シュルツ氏と父親の物語です――。(全4回)

トラック運転手として働いていた父親

最先端医療技術企業の経営者からビジネススクールの教授に転じたビル・ジョージ氏は、ピーター・ドラッカーやウォーレン・ベニスを継ぐリーダーシップ研究の第一人者である。実務と研究の双方で大きな業績を上げたジョージ氏は「オーセンティック・リーダーシップ論(自分らしさを貫くリーダーシップ)」を提唱し、その理論はビジネススクールで学ぶ人たちに広く支持されている。ここでは氏の著作『True North リーダーたちの羅針盤』(小川孔輔監訳、林麻矢訳、生産性出版)から、自分の生きてきた道筋を振り返り、「自分らしい」リーダーになるための考え方を紹介する。

ハーバード大学ビジネススクール・シニアフェロー ビル・ジョージ(ロイター/AFLO=写真)

本物のリーダーシップへの旅のはじまりは、自分を理解することです。つまり、自分の人生行路、その試練や挫折です。このことを知れば、自己認識ができ、トゥルー・ノース(編集部注=著者が「人生の基軸」を指して使う言葉)が発見できるのです。

1961年の冬、7歳のハワード・シュルツ(同=スターバックスCEO)はアパートの近くで友達と雪合戦をして遊んでいました。当時、ニューヨーク・ブルックリンにある公営アパートに住んでいて、その7階から母親が呼びました。「ハワード、戻っていらっしゃい。おとうさんが事故にあったのよ」

その事故が彼の人生を決定づけました。家に入ると片足全部をギプスで固定され、ソファに横たわっている父親がいました。トラック運転手として働いていた父親は、仕事中に氷の上で転び、足首を骨折したのです。その結果、職を失い、健康保険の権利も喪失しました。

シュルツは、父親のようにはならないと誓いました。彼が夢見たのは、「父が誇りをもって働ける会社」。従業員を大切にし、健康保険を提供できる会社を作ることでした。将来、世界中の2万1000店舗で19万1000人もの従業員を率いる責任者になるとは、当時は思いもしませんでした。シュルツの人生経験が、スターバックスを世界の代表的なコーヒーハウスに築き上げる動機になったのです。