行き詰まった現状を打破するにはどうすればいいのか。「プレジデント」(2017年12月4日号)では、4人の識者に「最高の自分」をつくる方法を聞きました。第3回のテーマは「やりがいのあることを見つけたい」――。(全4回)

他にやっている人がいないテーマに取り組むということ

「書く仕事がしたい」と最初に思ったのは、小学校3年生のときでした。短い物語を学校のニューズレターに載せてもらって、「ああ、これが自分の天職だ」と思ったんです。

ジャーナリスト オマル・エル=アッカド氏

エジプトで生まれた私は、小さな頃から引っ越しを繰り返していて、心から自分の故郷と呼べる場所がありません。5歳のときにエジプトを離れてカタールへ、それから16歳のときにカナダへ移りました。今はアメリカ・オレゴン州のポートランドに住んでいます。そんな私にとって、物語は自分の帰れる場所です。自分が住める世界を、自分自身でつくれますからね。

とはいえ、子供時代から物書きになろうと思っていたわけではありません。中東では、物書きや絵描きというのは職業のうちに入りません。だからカナダの大学に進学するときには、コンピュータ・サイエンスを専攻しました。

入学後に初めて、文章を書くことも仕事になりうるということを知りました。そこで大学新聞の編集部に入り、それからカナダ最大の全国紙「グローブ・アンド・メール」のインターンとして働き、卒業してから昨年の夏まで10年にわたり、同紙の記者として仕事をしてきました。

ビジネス、投資、テクノロジーなど、さまざまな分野を担当してきましたが、記者としていちばん関心があったのは、海外特派員の仕事でした。これまでに、「アラブの春」で起きたエジプトのデモを取材し、アフガニスタンや、キューバにあるアメリカ軍のグアンタナモ収容所にも行きました。アメリカでは、ミズーリ州ファーガソンで起きた白人警察官による黒人少年射殺事件やその後の抗議デモ、フロリダ州やルイジアナ州での地球温暖化の影響などを取材してきました。

そうした仕事をしながら、小説もずっと書いてきました。2075年に「第二次南北戦争」が起きるアメリカを描く『アメリカン・ウォー』は、自分にとっては4作目で、かつ初めて本になった小説でもあります。

自分を小説家と呼ぶべきか、ジャーナリストと呼ぶべきかはよくわかりません。どちらが本職かと聞かれたら、今はジャーナリストと答えるでしょう。それで長い間生計を立ててきましたから。それだけでなく、真実の価値が低下している今だからこそ、良質のジャーナリズムが必要だと考えています。

一方で、フィクションを書くことは、昔からずっと、自分が本当にやりたいことでした。ジャーナリズムは今起きている出来事、目に見えている事実を書くもの。フィクションというのは出来事の背景にある「なぜ」を書くものともいえるでしょう。

自分にとって仕事のモチベーションとなるのは、第1に、ほかにやっている人がいないテーマに取り組むことです。たとえば、アフガニスタンの山奥の村を訪ねる記者は、アップルの新製品発表会に集まる記者よりもずっと少ないですよね。

第2に、自分では声を上げられない人々の声を世の中に伝えたいという気持ちです。アフガニスタンの山中にいて戦乱に苦しんでいる人々には、企業のようにプレスリリースを出す力はありません。もちろん、彼らの声を聞きにいくことには危険も伴います。ゲリラ兵にロケット砲で撃たれたこともありますよ。それでも、そこにいる人々の声や物語を伝えることに自分は関心があり、モチベーションの源になります。