VRと同時に、ARやMR(Mixed Reality/複合現実)も注目を集め始めている。VRが、現実の空間には存在しない仮想の空間をコンピュータによって作成し、没入できるようにするのに対し、ARは仮想空間に現実の空間も重ね合わせて表示する。VRは現実の空間とは切り離された世界に入り込むのが目的なのに対し、ARはあくまでも現実の空間が主体で、そこに仮想のCGなどを表示するものと言える。2018年発売予定のMagic Leap Oneは奥行きのあるAR表現を目指しており、近くにある仮想のオブジェクトはくっきり見えて、遠くにあるものはぼやけて見え、より現実感が高くなるという。
そしてMRは、仮想空間と現実空間を融合させていくものだ。単に重ね合わせて表示するだけでなく、仮想と現実の物体の間でなんらかの相互作用が起きる。たとえば仮想のボールを投げると、現実のテーブルに跳ね返るように見えるのだ。MRの分野ではマイクロソフトが「HoloLens」という製品を開発しており、すでに開発者向けの製品は発売されている。
VR・AR・MRでの今後の課題は二つある。コンテンツの最適化と、さらなる軽量化だ。
コンテンツの楽しさだけではない可能性
シリコンバレーの有力VC、アンドリーセン・ホロヴィッツのパートナーであるクリス・ディクソンは、こう語っている。「VRにとってのこれからの数十年は、映画が生まれてからの最初の数十年間に似たようなものとなるだろう」
当初は舞台の演技を観客席から撮影するようなものにすぎなかった映画が、モンタージュやクロスカットなど独自の技法を発明し、新たな文化として独立していくまでには数十年がかかった。これと同じように、VRも単なる「奥行きのある映画」ではなく、VRでなければ得られないようなまったく新しい体験を実現していくだろう。「エンパシーマシーン(感情移入機械)」という言葉がある。他人の視野を代替して手に入れ、その感覚をごっそり自分のものとして体験することで、その人の感情の動きまでも自分のものにできるという考え方だ。このエンパシーマシーンの実現が、VRのコンテンツ進化の課題となるだろう。
ARやMRは物理空間と融合しているがゆえに、コンテンツを楽しむだけでなく、日常生活を支えるインフラとしても期待されている。今後は作業現場やスポーツ観戦、家電製品のマニュアル、不動産案内、医療などあらゆる場所に浸透していくだろう。そのためには機器が「装着していることが気にならない」レベルにまで軽量化されることが必須だ。
さらにその先には、裸眼でVRやAR、MRを実現する技術も期待されている。身体に外部機器を装着するのではなく、なんらかの手法で身体にデバイスを埋め込む方向性だ。コンタクトレンズ型を経て外科手術的なインプラントまで、この方面の技術には無限の未来が広がっている。