どうしてインフレにできないの?
じゃあ、なぜインフレにならないのか? これについては諸説あるけれど、有力な説としては日本経済の潜在的な生産能力が思ったより高くて、経済回復とともに、これまで働いていなかった人も働き始めた、というのが大きいようだ。世の中、物価の大半は賃金だ。だから賃金がもっと大きく上がらないと明確なインフレにはならない。でも、労働者が増えるとその分だけ賃金の上がり方も遅くなって、インフレが起こりにくくなるようだ。
そしてもう一つ、いまの低金利の状態で経済を完全雇用にもっていくには、金融政策と財政出動の両方を一気にやる必要がある。
1990年代は、財政出動が日本経済を下支えしたけれど、金融政策はバブルが怖いといって、デフレ退治にまったく取り組まなかった。だからその頃は、金融政策をもっと頑張ろうというのが大きな主張になった。でもその後、財政政策のほうは財政再建のかけ声と共に、ちょっと控えめになってしまった。財政赤字が大きい、国債発行しすぎというのがその議論だけれど、でも国債の利率は全然上がっていないので、実は発行しすぎとは言えない。そして、日銀の金融緩和で景気がちょっと上向いた瞬間に、財政政策のほうは消費税率を8パーセントに引き上げて大ブレーキをかけてしまったという、痛恨のミスがあった。
すると、日本銀行はもう少し実際の日本経済の底力にあわせて金融政策で頑張る余地があるし、それに伴い財政政策も、赤字を気にせず一気に大きなプロジェクト――教育充実でも子育て支援でも減税でも――をやる余地はあるはずだ。それができれば、本書の次の版ではアベノミクスについてもっと大絶賛になっているはずではある。