「男はつらいよ」では何も解決しない
だからと言って「企業=悪」「40代~50代社員=被害者」という単純な構図で企業を糾弾することが正しいとは限らない。賃金は労働者の限界的な生産性で規定されるという恒等式が、標準的な経済学の基本命題である。つまり、企業の売上や収益に貢献した度合いで賃金は決定されるということだ(もちろんブラック企業のような「市場の失敗」が発生するケースではこの限りではないが)。
「終身雇用」や「年功序列・年功賃金」を盾にしてスキルを磨いてこなかったツケが回ってきているのだとすれば、それは自業自得でしかない。「男はつらいよ」「昔は良かった」と嘆くのは簡単だが、今までが甘すぎただけだと言われればそれまでだ。自助努力でスキルを磨いて収益貢献するしか解決法はない。
他方で、日本固有の要因として「労働市場の流動性が低い(転職市場が小さい)」が故に、収益貢献度に見合わない不条理な賃金抑制を強いられても、労働者は会社に従わざるを得ないという側面も無視できない。結局のところ、持続的に賃金が上昇し続けるために必要なことは「自助努力による生産性向上が賃金上昇という形で実を結ぶ(=同一労働同一賃金)」環境を整備することだ。
そのためには生産性が低いにもかかわらず、高い賃金を受け取ってきた労働者には退出してもらう必要があり、この意味で解雇規制の緩和は急務であろう。同時に、高い生産性を持つ労働者が正当な賃金を受け取れるよう、企業の労務管理への監視を徹底するとともに、転職市場の流動性を高める、あるいは副業を推奨する、といった政労使の包括的な取り組みが求められる。
大和総研 エコノミスト。2007年東京大学経済学部卒業、大和総研入社。11年より海外大学院派遣留学。米コロンビア大学・英ロンドンスクールオブエコノミクスより修士号取得。日本経済・世界経済担当。各誌のエコノミストランキングにて17年第4位。