初体験は疲労困憊! 脱力の難しさを知る
しかし、である。長い。全然終わらない。「いつ終わるんだろう?」と思ううちに、10分経過、20分経過、30分経過(体感)……。その間もちろん無言、無音、中腰。そろそろ太ももが本格的にやばい、と思う頃にようやく終わった。結局40分近く経っていただろうか。まさか、スタートしてからそのまま静寂のうちにすべてが運ばれるとは思わなかった。しかもずっと中腰だ。ヘロヘロだ。ダンスなら普通一曲5分程度だが、これは30分以上ぶっ通し。しかも音楽もカウントもないので、かなり難しい。
これが、すなわち正宗太極拳99型だった。すべての動きに武術としての攻防の意味があるそうだが、まずは動きそのものを覚えなくてはいけない。とはいえ、今回は武術クラスの体験だったため99型を全部こなしたが、まずは初心者クラスで基本の14型を覚え、一日5分ほどやるだけでも体が確実に変わってくるそうだ。たしかに、型を身体に染み込ませ、流れに身を任せたらとても気持ちがいいだろう。
次は二人一組で行う太極拳ならではの組み手「推手」の稽古。相手を手で押すのだが、あれ? あれれ?「暖簾に腕押し」とはまさにこのこと。スカッ、スカッと押した力をかわされ、自分の重心が崩れてしまった。力を入れれば入れるほど、こちらのバランスが失われる。
最後に護身術では、腕をつかまれたときの手のはずし方を教えてもらった。言われた通りに腕を動かすと、力はまったく入れていないのに、すっと相手のつかんだ手が離れていく不思議。要は、相手の力が自然に抜ける体勢に持っていくだけでいいのだ。身体っておもしろい。力を入れないことこそが強い、という太極拳の威力を実感し、稽古は終了した。
何をするにも“脱力こそが力”。太極拳の根底に流れる、この考え方はとても興味深い。力に力で対抗するのではなく、力を受けたらスッと流す。そう、「心が折れそう」なんて言ってちゃだめ。折れるほどに力を入れちゃだめ。あら、すみませんと受け流す。太極拳から学ぶことはかなり多そうだなあ。なんて帰り道に反芻しつつ、太ももパンパン、全身ヘロヘロ。脱力までの道はまだまだ遠いみたい……。
1979年、東京都生まれ。ライター、編集者。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルーにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。中南米音楽誌、「週刊朝日」編集部、「アサヒカメラ」編集部などで働く。朝日新聞デジタルで、「島めぐり」、「おいしいゲストハウス」、「東京の外国ごはん」、「ワインとごはんの方程式」等を連載中。ウートピにてフォトエッセイ連載「Viva Photodays!」を執筆。旅とワインが好き。心はラテン、働き方はまだ日本人