上に立つ人間はニコニコしていたほうが良い
「THEMATCH2022」のメインイベントに据えた、那須川天心対武尊の交渉の過程で、「ノーコメントおじさん」は生まれた。
実現すれば、世紀の一戦といっても過言ではない夢のカード。自らを“ノーコメントおじさん”と呼んだのは、試合開催をなかなか発表できずにいる状況を、マスコミに否定的に報じてもらわないようにするための策でもあった。
「今日こそ何か発表するんだろうな」という緊張感に包まれた会見の場を、少しでも和やかにするには、置かれた状況を逆手にとって笑いに変えるしかないと思った。
ネット記事に、「榊原は今日もノーコメント」と書かれるのと、「ノーコメントおじさん、何も語らず」と書かれるのとでは、受け取る側のイメージも違うはずだ。
この一件に限らず、どんなにしんどくても、上に立つ人間はニコニコしていたほうが良いと常に思っている。きっと、ほかのさまざまな企業のトップも同じように考えているのではないだろうか。
難しくもない話を小難しく説明したり、あるいは、聞かれても答えられないことに終始無言を貫いたりして、それを渋い表情で受け取られるよりは、笑いに変えたほうが良い。私たちは、格闘技で単に泣かせたいと思っているのではない。
大会が行われる数時間の空間のなかに、喜怒哀楽のすべてを持ち込みたいと思っている。そのなかでも、格闘技に笑いを持ち込めたら最強だ。
ボブ・サップが愛されるワケ
ただ、笑いを引き出すというのは、ハードルも高い。笑いを起こすという点で見れば、2018年「RIZIN.13」で行った大砂嵐金太郎対ボブ・サップは完璧だったといっていい。
ファンが選ぶRIZINベストバウト(2015-2019)でも4位にランクインしている。それから、「RIZIN.14」で、“世界最強の女柔術家”ギャビ・ガルシアが勝ち名乗りを上げたリングに乱入した神取忍。
過去に2度も試合を組みながら、実現に至らなかった幻の対戦を要求する姿は、会場に大きな盛り上がりをもたらした。彼女のプロ魂には、ただただ脱帽した。
梅野源治の「YAVAY(やばい)だろ」もそうだろう。真剣勝負だからこそ生まれる笑いは、RIZINの世界観を広げる、重要なピースだ。