ただ、難治がんは今も存在する。任天堂前社長の岩田聡氏や女優の川島なお美さんを襲った胆管がんを含む胆のう・胆道がんの10年生存率は19.7%。難治がんの代表である膵がんは4.9%にすぎない。

「がんの生存率を左右する要因は、3つあります。1つはがんの性質の違いです。悪性度が高く進行が速いがんは総じて生存率が悪い。2つ目は、早期に発見できる診断技術が確立されているか。3つ目は当然ですが、そのがんに対する有効な治療法(手術、放射線、抗がん剤など)が確立されているか、ということです」(若尾氏)

胆管がんは管の壁に沿って発育するため、また膵臓は身体の奥深くに位置しているため、一般的な画像検査では早期発見が難しい。たとえば、新たに診断される膵がんの7割はIV期の進行がんだ。進行スピードも大腸がんに比べると段違いに速い。

したがって、手術で十分に取り切れる段階で見つけるのは困難だが、最後の砦の治療については手術療法が確立されている。また、一時は暗黒大陸とまで言われた切除不能な膵がんに対しても、有効な抗がん剤が出てきている。

2016年1月からの「5年生存率」が明らかになるのは22年。そのころには光明を見いだす事実が公表されることを期待したい。

治療したために障害が起きることも

一方「進行が遅く、早期発見が可能な検査法がある」がんの代表は前立腺がんだ。全病期の10年生存率は84.4%。進行がんでも手術が可能であった症例を抜き出すと、10年生存率は100%に達する。

果たして、この中の何%が本当に治療を必要とする「悪性度の高いがん」だったのか疑問が残る。進行が遅い超低リスクの前立腺がんは、治療しようがすまいが、10年生存率は変わらない可能性があるからだ。むしろ、治療したゆえに性機能不全や排尿障害という不利益を抱えかねない。

欧米では低リスクの前立腺がんについて、血液検査やMRI検査を参考に経過観察を行い、がんがうごめき出したら即、治療を開始する「積極的監視法」がスタンダード。若尾氏がいう。

「早期発見・治療は基本ですが、早期発見による死亡率減少効果が認められず、治療による不利益が利益を上回る場合は、慎重な対応が必要です」(若尾氏)