単純接触効果で興味深いのは、ポジティブな情報だけでなく、ネガティブな情報でも起こりうるということである。

日本のある県の知事さんが、こんなことをおっしゃっていたことがある。その県をめぐるネガティブなニュースがあって、知事さんの顔が毎日のようにテレビに流れていた。半年後くらいに、県内で、ある女性が知事さんの顔を見て、ニコニコしながら「あっ、よく見ています!」と叫んだという。つまり、その女性は、どんなニュースで知事の顔を見たかは忘れていて、ただ、親しみを感じたらしいのだ。

英語では、「悪い露出というものはない」という格言がある。失言がきっかけであれ、テレビのニュース番組などで取り上げられて露出することで、トランプさんへの好感度が全体として上がっていったことは、事実だろう。

また、トランプさんが、政治的な正しさといった「建前」の部分ではなく、人々の「本音」の部分をすくい取って代弁したことも、大きな意味を持ったと考えられる。

各種世論調査でも、トランプさんを支持するという回答が一定のバイアスを持って見られてしまうから、「隠れトランプ支持」がずいぶんいたと言われている。そのような人々が、本番の投票で、トランプさんの当選を支えた。

トランプさんの当選を支えた「本音」は、マーケティングで言うところの「インサイト」に当たる。人は、なぜ、ある商品やサービスを求めるのか。アンケートなどの表面的な回答では得られない、直感や洞察、隠された欲望にたどり着かなければ、本当の意味でのマーケティングの成功はありえない。

「単純接触効果」や、「インサイト」など、今回の「トランプ現象」には、興味深い側面がたくさんある。ヒラリー・クリントンさんは、それらの点において、残念ながら一歩及ばなかった。

(写真=AFLO)
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