「彼は、単に話術やボディーランゲージに長けているから人気が出たわけではありません。社会が求めている空気、その時代の雰囲気にマッチしたメッセージを発信しているから支持されたのです。これは考え抜いた戦略というよりも、一種の身体感覚でしょうね。
民衆にしてみれば、既成の政治家に過去何度も期待したけれど、口ばかりで解決してくれない。だったら徹底的にやってくれるアウトサイダーはいないか。そこでトランプに光が当たった。品がない、野卑、子供っぽいというのはわかったうえで、それでも何かやってくれる、とことんやってくれるのではないかという人々の期待感にうまく乗ったところがありますね。ただ、実際の大統領選挙になれば<よく言った>と熱狂していた人々も<ちょっと待てよ>と冷静になり、支持率が伸びないことは当然起こるわけです。トランプはここからが正念場。本当に優れた人物だったら<俺はリアリストでちゃんとやれるよ>と心憎いぐらいの演出の切り替えをするでしょう」
英国のEU離脱もそうですが、内向きになるエネルギーが強くなっています。
「英雄というのは、時代が求めるのですね。信長が活躍できたのは、世の中が荒れ果てて、天下統一を望む時代の空気があったからです。ヒトラーも、第一次大戦敗戦後、ドイツ国民が自信を喪失して、経済的にも惨憺たる状態だったからこそ現れた。
政治家が圧倒的な人気を得るためには、まず時代の状況という前提があり、かつ、その空気を感じ取る身体的直感を持ち、そして自分の個性を理解したうえで、時代が求める人物像を自己演出できること、それが求められるのですね」