※本稿は、横江公美『隠れトランプのアメリカ コロナ感染から奇跡のカムバックでトランプが勝つ⁉』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
「史上最悪の討論会」はトランプのワンマンショー
この本を書き終えようというときにトランプ大統領とバイデン大統領候補の第1回目の討論会が終わった。予想どおりではあるが、リベラル系のCNNを筆頭にメディアは「史上最悪の討論会」とこき下ろした。確かに「トランプがヒドかった」と感じた人は多いだろう。しかし、知り合いのテレビ・プロデューサーは、むしろ「天才的」と評していた。“間”の取り方が絶妙だというのだ。ゆったり話すバイデンと瞬間ツッコミ芸のトランプのショーだ。
2016年のヒラリーとの討論会をご覧になった人ならわかるだろうが、当時、ヒラリーはいくらトランプに話を遮られようが、ツッコまれようが、無視して話し続けた。話し続けられるだけの強さと人を惹きつける話術があった。しかし、バイデンにはそれがない。今回の第1回討論会はトランプのワンマンショーだった。バイデンに対する印象は「話を遮られてかわいそう」程度のものではないだろうか? 悪評も評判のうちを地でゆくトランプの狙いどおりだったと思われる。
トランプは討論会のなかでミシガン、フロリダ、ペンシルベニア州の名前を何度も上げていた。これは2016年にも使った手法だ。その土地の熱狂的なトランプ支持者と隠れたトランプ支持者にメッセージを送ったのだ。一方のバイデンは2016年のヒラリーと同じく、あくまで全国民へのメッセージを送り続けた。
アメリカの空気と日本での報じられ方に大きな差
私は2011年から2014年までトランプ政権が頼りにしていることで知られる保守系シンクタンクのヘリテージ財団で上級研究員として働いた。所内研修では現運輸長官のエレイン・チャオと一緒だった。トランプの政権移行チームでワシントンとトランプを繋いだのは、ヘリテージの設立者エドウィン・フルナーである。私は退所して東京に戻ったあとも、ワシントンに行けばヘリテージに朝から晩まで数日間いるので、トランプ政権が誕生する前の内緒話を彼らに聞かせてもらっていた。
そこで感じたアメリカの空気と日本での報じられ方があまりに異なっていたので、前回の大統領選挙半年前の2016年4月に、トランプ大統領誕生の可能性について『崩壊するアメリカ』(ビジネス社)と題した著書を上梓した。しかし、当時の日本における私の主張は完全に亜流だった。トランプが勝つと思っていた人が少なすぎて、テレビに出演させてもらっても、私の主張は浮いていたように思う。
今回の大統領選挙はバイデン優勢だが、当選を確実視するような空気はない。4年前の苦い思い出があるからだ。その4年間で、トランプは掲げた公約のほとんどのことを成し遂げた、ないしは成し遂げている最中だ。その実行力は驚異的である。
トランプはアメリカだけでなく、ポスト冷戦後の国際秩序を大きく変容させてきた。いまだ「途上国」を自認する中国には対立構図を明確にして圧力をかけ続けている。中東ではイスラエルを通じて着々とイラン包囲網をつくり上げている。そして、着実に成果をあげようとしているのだ。