選挙まで残り2週間、劣勢トランプが持つブードゥー的な魔力とは
アメリカ大統領選まで残り約2週間となった。
各種世論調査では、民主党のジョー・バイデン候補(77)が大きくリードしているが、現地ではそれを額面通りに受け取り、安心する人は少ない。ドナルド・トランプ大統領(74)が何やらブードゥー的な魔力を持っていると言われるからだ。
嘘と暴言と誹謗中傷と自画自賛を繰り返し、正直、品位のかけらもない人物ではあるが、いまだその岩盤支持者層の熱狂は冷める兆しがない。
10月30日に発売される拙著『世界最高の話し方』(東洋経済新報社)の中で、世界のリーダーたちのコミュニケーション術を分析する中で、トランプについても詳しく触れているが、今回は「彼の何がここまで人を心酔させるのか」について、掘り下げてみたい。
筆者が「トランプ教」の洗礼を受けたのは2004年のことだ。当時ニューヨークで暮らしていたが、その年の1月に始まったトランプ主役のリアリティ番組「アプレンティス(弟子)」に瞬く間に夢中になった。
事業家を志す若者たちが、彼の会社でさまざまな課題に挑み、最後に残った1人をトランプが採用する、という趣向で、毎回、落とされる人に向かってトランプが言い放つ「You are fired」(お前はクビだ!)は流行語になった。歯に衣着せぬ物言いが痛快で、大人気番組となり、筆者も毎週、楽しみにしていたものだった。
「悪名は無名に勝る」炎上商法の元祖はいかにして出来上がったのか
20代で父の会社を継いでから、彼は常に、メディアのスポットライトを独占し続けてきた。ビジネス、結婚、不倫、スキャンダル、一挙手一投足がメディアに取り上げられ、毎日のように、タブロイド紙の一面を飾ってきた。半世紀にわたり、メディアと付き合い、どうふるまえば、何を言えば、メディアに取り上げられるのか、人々が喜ぶのかを身をもって学んできた人物ということだ。
そこで、知ったのは「悪名は無名に勝る」ということ。「真実がまだパンツをはこうとしている頃、嘘の方はすでに世界を一周している」とはイギリスの宰相、ウィンストン・チャーチル(1874~1965年)の言葉だが、トランプは、真実よりも、センセーショナルな嘘、ポジティブな話よりも、ネガティブな話のほうが100倍伝わりやすいことを熟知している。正論よりもあえて、異論を選ぶ。日本でも、常識や当たり前の真実を否定し、わざと、悪漢ぶった論調で話題をさらう輩は少なくないが、まさに彼はそうした炎上商法の元祖のような存在だ。