マーケティング目線で自らの「きらり」を磨く

取り組みは始まりつつあります。16年3月にオープンした「東急プラザ銀座」の外観は江戸切子がモチーフです。銀座を訪れた観光客の方々に、強く印象付けられています。また東京スカイツリーでは展望台に向かう4基のエレベーターに、それぞれ東京の伝統工芸が取り入れられており、その1基には花火をモチーフにした江戸切子が使われています。

銀座最大級! 外観のモチーフは「江戸切子」 2016年3月に東京・銀座の数寄屋橋交差点に開業した「東急プラザ銀座」。延べ床面積約5万平方メートルの大型商業施設で、衣料品店や飲食店など125店が入居。初年度の目標売上高は330億円。外観のモチーフは「江戸切子」。卓越したガラス工芸で、02年には国の伝統的工芸品に指定された。

伝統工芸を守るためには、ビジネスとして利益の出る仕組みを整えることが大切です。優れた技術を海外に発信できる人材が求められています。特に「江戸切子は海外で受けるはず」ということに気づき、「海外で展開しよう」と実行に移せる人材が足りません。これを東京都でバックアップし、伝統の再生、新たな雇用の創出につなげることを目指していきます。

日本の伝統工芸が、海外で価値を再評価された成功例はいくつもあります。たとえば岩手県の「南部鉄器」。戦後の洋風化で国内市場が縮小したため、平成に入り海外向けにカラフルな鉄瓶を製品化しました。海外の顧客の要望に向き合い、デザイナーの新たな提案を取り入れ、鮮やかな色のティーポットを生み出したのです。この「カラーポット」はフランスやベルギーの紅茶専門店でブームとなり、現在、日本国内でも新しい南部鉄器として展開されています。

時代が変わっても、伝統工芸の価値は変わりません。しかし囲炉裏がなくなれば、鉄瓶のニーズはなくなってしまいます。伝統ある宝物を次の世代に確実に継承していくためには、「マーケティング目線」をもちながら、常に磨きをかけていく必要があります。

これは個人に置き換えても同じです。「マーケティング目線」をもって、常に自分の価値を磨かなければ、市場で埋没してしまいます。「私は頑張っている」ではなく、「周囲にどう評価されるか」が重要です。他社や異業種の人との付き合いを増やしてみると、普段の仕事の中で当たり前だと思っていることが、別の会社や業界では面白い発見になるかもしれません。そうした気づきは、自分の可能性を再発見する機会となります。新しい環境に自分を晒すことが、自らの「きらり」を磨くことになるでしょう。

小池百合子(こいけ・ゆりこ)
1952年生まれ。カイロ大学文学部社会学科卒業。テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』などでキャスターとして活躍。92年政界に転身し、環境大臣、防衛大臣などを歴任。2016年、東京都知事に就任。
(構成=藤井あきら 撮影=原 貴彦)
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