東京都は1月、深夜保育を支援するため、新年度予算に6000万円を計上すると発表した。支援の対象は介護、看護、それに飲食業などで深夜働く親の子供たちだ。夜間に子供を預けて働くことには批判もある。小池百合子都知事に政策の真意を聞いた――。
小池百合子東京都知事(撮影=プレジデントオンライン編集部)

「待機児童」にすらなれない子供たち

深夜、ベビーホテルに預けられているのに、待機児童にすらなれない子どもたちがいる。

待機児童とは、保護者が子どもを認可保育園に入園させることを希望しているにもかかわらず、空きがないために入園できずに順番待ちをしている状態の子どものことだ。1990年代後半から社会問題となり、国や自治体はさまざまな策を講じてきたが、依然として1万9895人(2018年4月時点)の待機児童がいる。

その一方、深夜のベビーホテルには、待機児童にすらカウントされず、いないことにされている子どもたちもいる。多くの自治体が「夜間保育園」を設置していないため、深夜保育のニーズが把握されていないのだ。

現在、認可の夜間保育園は、札幌市、東京都、名古屋市、京都市など全国40都市以上にあるが、その数はわずか81園にとどまっている。

夜間保育園の制度が始まったのは、1981(昭和56)年である。当時、ベビーホテルの開所には設置基準がなく、ニーズに応じて簡単に増やせた。ただし多くの施設で、安全面と保育の質に重大な問題があった。無資格の経営者によるずさんな保育の実態について、TBSが1980年3月から継続的に報じ、国会でも「1日じゅうテレビの前に寝かせたまま」(1980年5月14日衆院田中美智子議員の質疑)として取り上げられた。その結果、夜間保育園という制度ができた。

それから40年が経とうとしているが、夜間保育園は一向に増えていない。増えているのはベビーホテルだ。全国の施設数は1530カ所。ベビーホテルの数は、届け出のあった施設だけでこの40年で約3倍に増えた。

「水商売」の親たちへの支援にもなる

そこへ今年1月、東京都の小池百合子都知事が深夜保育に関する施策を発表した。飲食業や介護、看護などに就く親のために、都独自の保育制度である認証保育所のうち、7施設の深夜保育の実施を見込み、約6000万円の予算を計上しているという。

小池都知事は、夜間保育の中でも22時以降の深夜帯、そして、介護や看護だけでなく、飲食業にまで言及した。これはいわゆる「水商売」の親たちへの支援に踏み込んだとみることができる。

「うれしい。東京の話とはいえ、まるでこれまでの活動にエールを送られたような気持ちです」

こう喜ぶのは、福岡市で夜間保育園を経営する天久薫さんだ。天久さんは夜間保育事業者の草分けだ。1973(昭和48)年、中洲のホステスの子どもたちを預かる夜間託児所を開設。1981(昭和56)年に夜間認可保育園が制度化されると、翌年、夜間保育園を開園した。現在、深夜2時まで保育を行っている。

開園当初から今にいたるまで、夜間に子どもを預けて働く親、なかでも「水商売」の親への偏見と差別は保育業界にさえあると感じてきた。「水商売の親を支えていることを前面に出すと、夜間保育が必要だということが理解されにくかった」と、天久さんは振り返る。

同業者の団体として全国夜間保育園連盟をつくり、制度拡充や保育の質の向上の活動にも携わってきたが、約60の加盟園のうち、24の保育園が、深夜型ではなく22時までの夜間保育園だ。そのため、陳情に際しては「さまざまな働き方の親がいます」と、あえて水商売の親たちについて触れないよう気を配ってきたという。